強く生きろ name
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いつもの朝。家賃をたんまりとためていた俺たちは机の下に隠れて、あの娘がやってくるのを待っていた。


「いいか、絶対動くなよ。気配を消せ、自然と一体になるんだ。お前は宇宙の一部であり、宇宙はお前の一部だ」

「宇宙は私の一部?すごいや!!小さな悩みなんてぶっ飛んじゃうヨ!!」

「うるせーよ静かにしろ!!」

「あんたが一番うるさいよ!!」

「いやお前のツッコミが一番うるさい!!」


家賃を回収しに来たという言葉が聞こえなくなり、やけに静かになる部屋。
どこかに行ったのか?と思っていると、すぐ後ろから声が聞こえる。


「ナンカ修学旅行ミタイデドキドキスルネ」


俺たち3人の隠れている机の下に入り込み、すぐ近くでそういったのはキャサリン。
俺たちは仲良く3人全員でぎゃあああと叫んだ。





「キャサリンは鍵開けが十八番なんだ。たとえ金庫にたてこもろーがもう逃げられないよ」


お登勢のババアがそう言いながら頬杖をつく。俺たちは全員家賃分のただ働きをさせられていた。部屋の真ん中では同じように箒や雑巾を持ちながら、笑顔で朱理ちゃんが指示を出していた。
神楽があまりにも猛ダッシュュし雑巾がけをするものだからその笑顔も苦笑いに変わっていたが。


「しかしばーさん、あんたも物好きだねェ。店の金かっぱらったこそ泥をもう一度雇うたぁ、更生でもさせるつもりか?」

「そんなんじゃないよ。人手が足りなかっただけさーね...」


ババアはそう言ってタバコを吹かせる。
俺はそれをチラッと見届けて、もう一度視線を前に動かせば、朱理ちゃんがちょうどこっちを見ていた。あいつも、大概このババアの娘らしく人を簡単に信じ込んじまうタイプだ。こういうのも親子っつーのはにちまうらしい。
こっちを苦笑いしながら見てる朱理ちゃんに近づき、あとは頼むわと一言いい、俺はスナックお登勢から出た。





「そうそう、ほっとけほっとけ芯のないやつぁほっといても折れて行く。芯のあるやつぁほっといてもまっすぐ歩いていくもんさ」

キャサリンさんがまた泥棒に戻るかもしれないというときに、銀さんの間の抜けた声がお店の中に響いた。銀さんはなぜか袋の中をゴソゴソとかき回しながら、ある一体のフィギュアを出した。


「なんだぃこれ」

「お天気お姉さん結野アナのフィギュアだ。俺の宝物よ。これでなんとか手を打ってくれ」

そう言った銀さんがお登勢さんによって投げ込まれるのは当たり前のことで。それをクスクス笑いながら見守る朱理さんに、お登勢さんは扉を片付けておいてくれというと、手をパンパンと叩きながら奥へと消えていった。


その夜、案の定銀さんはキャサリンさんの元へといった。
銀さんがキャサリンさんと話しているのを、僕と神楽ちゃん、朱理さん、お登勢さんの四人で壁に隠れて聞く。


「人様に胸張れるような人生送っちゃいねぇ。まっすぐ走ってきたつもりがいつの間にか泥だらけだ。だがそれでも一心不乱に突っ走ってりゃいつか泥も乾いて落ちんだろ」

「ソンナコト言ウタメニキタンデスカ。坂田サン、アナタ本当ニアホノ坂田デス」

「いやよぉ...実はババアに家追い出されて今日はドカンで寝ようと思ったんだが...キャサリンお前助けてやったんだから口利きしてくんねーか?朱理ちゃんはババアの息の根がかかってるしな」


その言葉を聞きながら、朱理さんは笑いながら二人を見つめて、僕はこの言葉をもう一度お登勢さんに考えてもらえるように話を振った。


「ですって。どうですかね、家賃3ヶ月分ぐらいの働きはしたんじゃないですか?朱理さんも、お願いします」

「んー...じゃあ2ヶ月分でどうかな?お登勢さん、どうですか?」

「はぁー...バカかい、お前たちは。1ヶ月分だよ...」


鶴の一声もなんとやら。なんとか僕たちは家賃1ヶ月分は免除してもらった。
そのあと、銀さんとキャサリンさんたちと落合わせて、6人並んで帰った。道中、銀さんがなんども朱理さんにもう一月分どうだ?とお願いしていて。それを朱理さんは「お登勢さんの言ってることは絶対ですよ」と一刀両断していた。

それを後ろからおかしそうに笑いながら見るキャサリンさんに、静かに笑いながら前を歩くお登勢さん。
なんだか、スナックお登勢もどんどん人が増えてきて、大所帯になっていきそうな、そんな予感がなんとなくした。





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