強く生きろ name
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今日もスナックお登勢の営業が始まる前に、言われたもののリストをメモに書き、買い物に向かおうとお店を出た。丁度上の階から足音が聞こえ、万事屋の3人の誰かだろうかと上を見上げると、坂田さんが気だるそうに階段を降りるところだった。


「こんばんは、坂田さん」

「ん?あぁ...朱理ちゃんか。どっか行くのか?」

「今から買い物に」

「そーか。俺もそっちに用あるからよ、付いてってやるよ」


頭をぽりぽりと掻きながら、私の隣に立つその銀髪頭の男の人。
坂田さんは眠いのか大きくあくびを一つこぼしながら、のっそりのっそりと歩き出した。


「ずっと寝てたんですか?」

「寝てたわけじゃねーけどな。神楽のやつがセールだっつーのにトイレットペーパー買いに行くの忘れやがったんだよ。シャーねーから俺が行くことになった」

「さすが、お兄ちゃんですね」

「だーれがあいつらの兄貴だ」


いやだ面倒だ、そう言いながらもなんだかんだ自分から率先して動く坂田さんは、どこからどう見てもお兄ちゃんのそれで。私に兄がいたら、坂田さんのような兄がいいですといえば、坂田さんは面白そうに頬をあげてハッと鼻で笑った。


「朱理ちゃんみたいな妹も悪かねーけど、毎日説教されそうでごめんだ」

「今もそう変わらないですよ」


家賃の取立て、食べ物がない腹が減ったと愚図る坂田さんたちへのご飯のお届け、たまにお掃除の手助け。今までやってきたことを思い浮かべながらそういえば、坂田さんも思い当たる節が何個も出てきたのだろう。笑ったその顔のまま目を閉じで、違いねぇと一言言った。


「そういやーな」

「はい?」


大江戸スーパーにつき、かごを坂田さんに渡してメモを開けば、坂田さんが果物やジュースを物色しながら何気なく口を開いた。



「宇宙旅行に行ってくるわ」



その一言に、私がすべての荷物を落とすまで、あと5秒。









「宇宙旅行ねぇ...」

「てわけでしばらく定春預かってくんね?」


スナックお登勢の営業も終わり、お客さんもいなくなった夜。キャサリンさんは先に上がって私とお登勢さんの二人で片付けをしている時だった。夕方に宇宙旅行に行くと行っていたその人が現れ、さも自分の席だという顔でカウンターの席に座り、そういった。
私は日本酒を少しだけ注いだコップを坂田さんの前に出し、お登勢さんと坂田さんの話を黙って聞いていた。


「どうやっていくっていうんだい」

「神楽が商店街の福引で当てたんだよ」

「妙な運でも持ってるんだねぃ、あの子も」

「でも定春くん預けるって言っても、神楽ちゃん無理やり連れて行きそうですけど」


雑巾を濡らして絞りながらそういえば、お登勢さんがくすりと笑いながら違いないさね、とつぶやきタバコの煙を一つ吹く。


「あんなでけー犬どうやって持ち込めばいいんだよ」

「ぬいぐるみって言ってごまかします?」

「朱理ちゃんはバカか?」

「坂田さんに言われるなんて、私一生の不覚です」

「あん!?」


坂田さんと言い合う私たちのそんな姿を見て、お登勢さんが呆れながらこっちを見て、そして笑っているのを私たち二人はきちんとわかっていた。気づかないふりをしていたけれど。






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