強く生きろ name
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とある日のことだった。スナックお登勢に急に病院から電話がかかってきたのだ。
電話の主は、坂田銀時の名を口にしていて、至急病院に来てくれ、といった。



「みんなぁ!!」

「新八...」


病院の待合場所でお登勢さん、キャサリンさん、神楽ちゃんと待っていれば、新八くんが走ってやってきた。
家からダッシュできたのだろう、息が切れている。


「銀さんは?銀さんは?大丈夫なの?」

「病院ででけー声出すんじゃないよバカヤロー!!」

「オメーモなババァ!!」

「オメーモナクソガキソシテ私モサ!!」

「はいはい、落ち着いて、どうどう」


神楽ちゃんたちがいつものように大声であげるのを私は馬をなだめるように手をひらひらさせる。
焦った顔でこの3人に聞くのはダメかと察したのか、こっちを見る新八くんに私は目を合わせて笑みを浮かべる。


「大丈夫だよ、坂田さんは」

「心配いらんよ。車にはねられたくらいで死ぬタマかい」

「ジャンプかいにいったときにはねられたらしいネ。いい歳こいてこんなん読んでるからこんな目に遭うアル」


一旦落ち着いた二人がそれぞれ冷静にそう言う。
私も、坂田さんは死んではいないだろうし、二人と同じようにウンウンと頷いていれば、それを聞いていたのだろう車で坂田さんをはねた当事者がやってきて、へらへらと笑いながらマジスンマセンでしたといった。
あまりに誠実さが見えなかったので思わずカチンときたが、私以上に神楽ちゃんとお登勢さんがボコボコにしてくれたので、私はスンデのところで立ち上がるのをやめて、もう一度座り直した。



「なんだぃ全然元気じゃないかぃ」

「心配かけて!!もうジャンプなんて買わせないからね!!」


入ってもいいと先生に許可をもらい、全員で病室に入る。
思いの外重傷というわけでもなかった坂田さんを見て、ホッと心を撫でおろしていれば、ずっと下を向いたままだった坂田さんが不意に顔を上げる。


「誰?一体、誰だい君たちは?僕の知り合いなのかい?」


いつものような死んだ魚の目をしていない坂田さんが、とんでもない一言を言い放ったのだ。




「万事屋銀ちゃん、ここが僕の住まいなんですか?」


なんでも、先生が言うには坂田さんは頭をひどく打ったらしい。その衝撃で記憶もぽろっとこぼれ落ちたようで。一時的に私たちのことを忘れてしまったらしいのだ。
なんということだ、私たちは坂田さんの記憶を呼び戻すために一旦家に連れて行った。

もう何年もずっと住んでいる我が家を見ても、何も思い出せないのかボーッと見ている坂田さん。
私のことも忘れてしまったらしい坂田さんを、私は下から見上げる。


「...思い出せませんか?ずっと、ここで一緒にやっていたのに...」

「...朱理さん...」


少し寂しくて、そういえば、新八くんもメガネを曇らせて私を見た。


「...申し訳ないです。あなたのことも、いつか必ず思い出します」


と、坂田さんらしくもない真面目な声、顔で私の両手を握り締めながらそう言ってくる坂田さん。(実際は記憶喪失してるわけだから坂田さんではないのかもしれないが)


「なぁにどさくさに紛れて私の娘に手ェ出してんだゴルァ!!」

「アホノ坂田サンガ朱理に移リマースヤメテクダサイ!!」


私の両手を握っていた坂田さんを見ていち早く怒ったのはお登勢さんとキャサリンさん。思わずびっくりして離れれば、坂田さんは思いっきりボコボコにされていた。


「...新八くん、神楽ちゃん、江戸の街回ってきて?坂田さんこれでもコネクションたくさんある人だし、回ってたら何か思い出すかも」

「そうですね...行ってきます」

「うん」


新八くんと神楽ちゃんにそう言えば、二人は未だにボコボコにされている坂田さんを無理やり起こし、街の方へと消えて行った。
私以上にきっと、あの二人が寂しい思いをしているのは間違いなかった。だってあの二人はずっと、坂田さんと一緒に万事屋銀ちゃんとしていろんなことをしていたから。一刻も早く坂田さんの記憶が戻ることを祈りながら、私はお店へと入った。






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