強く生きろ name
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坂田さんが長谷川さんにつれ出されて仕事へと向かっていった。その後ろ姿を見送って、私はスナックお登勢の中へと入った。

本当に、このままでいいのだろうか。私はこのまま、あの人達に何もしなくていいのだろうか。モヤモヤとした気持ちのままじゃ、仕事に手もつかない。

このままじゃダメだと、頭を振ってテレビをつければ、手に持っていたリモコンをカウンターのテレビに落とした。


「なにかあったのかい、朱理」


音に気づいたお登勢さんが奥からお店に出てくる、それに対してなんでもないですと慌てて言えば、少し怪訝そうな顔を見せながらも奥に消えたお登勢さんを見送る。そしてもう一度テレビを見れば、やっぱりそこに写ってるのはリアルで起こってるようなものではなくて。

『それにしても、あの禍々しい生物は一体何なのでしょう?』


ターミナルにエイリアンみたいなうねうねしたものが侵入していて。テレビの撮影スタッフが何とか拡大してそこを見せた。


『ん…あれ、ちょっ…人影?間違いない、人影です!人が!えっ…女の子!?なっ…なんということでしょう、少女が!一人の少女が船の甲板で謎の生物を相手に!あれは、戦っているんですか!?』


テレビのリポーターが声をあげる。謎の生物と戦っていると少女が拡大されて。そこに映っていた女の子は、私がよく知る女の子だった。


「……神楽ちゃん…!!!」


私は慌ててスナックを出て、右、左と顔をキョロキョロする。困ったことにターミナルなんていった事がないから、どっちにいけばいいのかわからないのだ。でも身体は早く神楽ちゃんの所に行きたくて。私に何ができるのかなんてわからないけれど、それでもやっぱり、妹のような存在の彼女の元に行きたくて。


「朱理!!」


不意に呼ばれた名前に慌てて振り向く。遠い方にある白い点が徐々に大きくなり、そして私の前に近づくたびにそれが確かな人形と犬型になっていった。

「坂田さん…!神楽ちゃん…!神楽ちゃんが…!!!」

「わかってる、わかってるから、お前は大人しく店にいろ」

「そんなのやだ…!私も神楽ちゃんの所に連れていって…!」


定春くんに跨っている坂田さんが、私の目をしっかりと見つめて、慌ててる私の肩を抑えた。落ち着け、と。いつもは死んだ魚のような目をしてるくせに、力を入れた目でそう語ってくる坂田さん。


「お前にあんな所連れて行ったってババアに知られたらどうなるかわかってんだろ。いいから落ち着け、大丈夫だから、な?」


何度か深呼吸をして、私は胸の近くで両手を握りしめる。大丈夫。坂田さんが大丈夫と言うんだから。きっと、大丈夫。


「…俺がなんとかしてくっから」


坂田さんが、珍しく頼もしい。私はそんな坂田さんの目をしっかりと見つめ返して、笑顔を浮かべる。


「…ご飯、作って待ってますね」


きちんと笑えて言えただろうか。

私の頭をポンと一つ叩いて、坂田さんと定春くんは、勢いよく駆け出して行った。

戦うことのできない私があそこに行ったって何も使えない。それはわかってるから、連れていってくれなかった事に嘆く必要はなくて。
私はもう一度深呼吸をして、神楽ちゃんが戻ってくることを信じて、お店の中に入って行った。




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