強く生きろ name
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目を開けると、そこはよくわからない場所だった。

自分は死んだはずで、最後に見た自分の姿を思い出しそっと手を頭にのばす。血は出ていなかったが、かさかさとしている部分を触ると、それはかさぶただった。

こんな短時間でかさぶたになるはずはない。

おいおい、一体どうなってやがるんだ、と 周りを見れば、確かに私はマンションの屋上から飛び降りたはずなのに、目の前に広がる世界は高層ビルとよんでもいいのだろうビルに京都の歴史的建造物的な建物数軒。

それがずらーっと並んでいるかと思えば、パトカーもスクーターも存在し、それでも全員着物を着て歩いている。

私は高校の制服のままで、逆にこの服装は周りの人にとって奇妙に見えているのだろうか、色んな人に視線を向けられている気がする。

とりあえず人の居ない場所へ行かないと。私は人通りの少ない路地裏へと足を進めた。

とりあえず落ち着いて冷静に考えよう。

私は、自殺をした。

そうだ、死んだはずなのだ。
自分が頭から血を流した所を、この目できちんと...

いや、死んだはずなのに何故見たといえるのだろう。

それでも頭から離れる事のない血を流した自分の姿と父と母と弟の叫び声。それは確かに、事実だと脳が叫んでいる。

「...あんた、こんな所でなにやってんだい」

気づけば、目の前に人が立っていた。
今この状況を全く理解出来ていない頭で、自分の家も自分の立場も、これからどうすればいいのかも分からない今の私には、目の前に立っている女性が光って見えている。

「...あ、あの...」
「もうそろそろ雨降るよ。そんな所に座って、雨がしのげるとでも思ってんのかい?」

たばこをふかしながらそう問いかける女性の言う通り、空は暗く雲に覆われており、そしてぽつぽつと雨が落ちて来た。

「...本当だ」
「いいから立ちな。そこは私の店だ。中に入って雨でもやむの待ってればいいさ」

そう言って、路地裏をでて行く彼女の背中を見つめる。ただ見つめることしかできない私にしびれを切らしたのか、女性は立ち止まりふぅと息をついた。

「風邪引きたいのかい」

振り向き様にそう聞く女性に、慌てて私は立ち上がり、のれんを上げ扉を開けてくれる彼女にお礼を言って中へと入った。

「お、お邪魔します...」
「今日は雨降ってるからあまり客は来ないだろうねぇ...」

タバコの火を灰皿で消し、カウンター席の中へと入る彼女。

「あの、えっと」
「なんだい」
「貴方のお名前は...あ、私は中沢朱理と言います」

緊張しているのかとりあえず口がとまらない。そんな私を見て、ふっと笑った女性は口を開く。

「私はお登勢。本名は寺田綾乃、ここの店を営んでるのさ」
「店..?」
「スナックお登勢っつーんだ。お登勢って呼びな」

そう言って、新しいタバコに火をつけたお登勢さん。ふーと吹いた煙が、ゆっくりと上に登って消えていった。



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