強く生きろ name 2 「ただいま戻りました」 「おかえり、朱理」 お店に戻り、お登勢さんに声をかける。 お登勢さんは奥の方から出て来て、その手にはお団子があった。 「花、買って来たかい?」 「あ、はい。おつりここに置いておきますね」 テーブルの上におつりと使わなかったお金を置き、ちらっとお登勢さんを見る。 「アイリスかい。随分可愛い花を選んで来たもんだね」 「店員さんが、これをおすすめしてくれて」 「そうかい」 ふっと笑ったお登勢さんに、えへへと笑えば、今から出かけるからついてきなと言われた。 慌ててお登勢さんの後をついていけば、お登勢さんは何も言わずに前を歩き始める。 一体どこに行くのかと聞いても何も答えてくれなかったので、私は手にした花束を見つめながら彼女の後ろをだまってついていった。 ついた場所は墓地。 お登勢さんはずいずいとお墓の横を通り過ぎ、そしてある一つの墓石の前に止まった。 「お登勢さん...」 寺田家之墓と書かれたお墓。その前にしゃがみこんどお登勢さんの隣に、同じようにしゃがみこむ。 「私の旦那の墓だ」 そう一言いうと、すこしだけ口角を上げながら立ち上がり、てきぱきとお墓を奇麗にして行くお登勢さんに慌てて自分も墓石を水で流したりなど手伝える事をする。 「ありがとうよ、朱理」 「いえ。お登勢さんの旦那さんのお墓ですから」 片付けが終わりひと段落した時、お登勢さんはライターを取り出しタバコに火をつけと。すぅと吸いこんだ煙をひとつ吐くお登勢さんの顔を見つめる。 「どんな、旦那さんでしたか?」 私は束になった花を、水に活けて奇麗に整えながらそう聞いた。 「そうさね...優しい旦那だったよ」 そう一言だけ言ったお登勢さんの顔はそれはそれはとても優しい顔で。 そして、とても可愛い顔をしていた。 私も少し嬉しくなって、いい旦那さんだったんですね、と静かに言った。 「子供は授からなかったけれどね、あれは絶対いい父親になれた男だったよ」 「それは子供にとってもいいお父さんです。お登勢さんも、とてもいいお母さんになれたんでしょうね」 「どうだかねー...」 はは、と笑いながらそれでも愛おしそうに墓石を見つめるお登勢さん。 「あんたの親は、どうなんだい?」 「私の...親、ですか」 お登勢さんのその言葉に思わず握りしめた拳。それをめざとく見つけたお登勢さんは、煙をまたひとつはいたあと、 「言えない事は無理して言わなくていいんだ」 と、私の手に手を重ねてそう言った。 「さて、もうそろそろお店に戻って準備を始めないとね」 「そうですね」 空は赤みを帯びて来ていた。 二人でよいしょと言いながら荷物を持ち上げ、顔を見合わせて笑いながらお店へと戻る。 その日、私は初めて、違う夢を見た。 → |