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小さい頃、両親が死んだ。


緑に囲まれた森の奥で、お父さんとお母さんと私の三人で、毎日ひっそりと生きていた。
暖かい日には外に出て、木ノ実や草を拾ったり。雨の降る日には、家の中から雨を見つめながらこの雨一つ一つにも、神様が宿っていると、教えられていた。


二人はすごい力を持っていた。紙を取り出してはそれらを浮かばせて、部屋の整理や掃除をさせていた。それが魔法だということを、親が死んで、お祖母様に拾われた時に初めて知った。


「おはようございます、お嬢様」
「うん、おはようタイリー」

タイリアナ・シェバン。私に仕える同い年の男の子だ。昔お祖母様が連れてきた男の子で、彼もまた親を殺された経験を持つ人だった。

朝は毎日、タイリーが起こしてくれる。薄紫色の着物に着替えて部屋の襖を開ければ、使用人の黒い着物を着たタイリーが、正座をしながら私を待っていた。

ちらりと上を見上げて私の目を見ると、タイリーはニコリと、その端正な顔に笑みを浮かべて立ち上がり「参りましょう」と、毎朝の恒例の儀式へと足を進めた。


「おはようございます、お祖母様」
「えぇ、おはようございます、ヒヨリ。皆も」


大広間につけばまずは全員で正座をする。現当主の座る上座に向けて、三点指を着き、頭を深く下げる。

陸奥村家現当主、陸奥村コトヨ。彼女は私の祖母にあたる。私の死んだお母さんの、母親であった。


『……来なさい、ヒヨリ』


雨の降る夜。母親と父親が消えたその日、お祖母様はその身に纏う黒いローブを雨で重くしながら、私に手を伸ばしたのだ。


「ヒヨリ、貴方の元へふくろうが来ています」
「ふくろう…ですか?」
「えぇ」

頭を上げてお祖母様を見れば、お祖母様は腕の上にふくろうを乗せて、それを見せた。くりくりの目、鋭い嘴を持った茶色のふくろうだ。そのふくろうは私の元へひとたびとび、手紙をぽとりと落とした。目を瞑って頭を捧げるように下げたふくろうの、その頭をそっと撫でれば、満足したかのようにまた目を開き、ばさりと羽を広げ窓から飛び立っていった。


「手紙が二枚…あります」
「…タイリーと、貴方のぶんですね」
「俺の…?」


斜め後ろに控えて頭を下げたままのタイリーが、声を発する。
その手紙を開けば英語で、ホグワーツ魔法魔術学校と書かれており、私の名前とタイリーの名前が書かれていた。


「欧州にある魔法学校です。タイリー、貴方の父親と、ヒヨリ、あなたの母親、つまり私の娘が昔通っていた学校です」
「父親が…」
「お母さんが...」


お母さんが昔通っていた、学校。


「しかし、今貴方達は魔法処に通っていますので、必要ないでしょう。その学校の校長とは古くからの知り合いなので、断る旨の手紙を差し出しておきます」


話は終わりだと。有無を言わせずにそう言ったお祖母様が立ち去る。慌てて私はもう一度頭を下げて、お祖母様が上座から去るのを待つ。そして、次は次期当主の私が広間から立ち去る番だ。タイリーの「お嬢様」の言葉で立ち上がり、他の使用人達へ挨拶をしながら、自室へと戻る。

自室へ入り、まずはその手紙をもう一度見直す。英語の喋れるタイリーのおかげで小さい頃から英語は身近にあった私。どうにか読み砕くことのできるそれを、タイリーと二人で声に出して読んだ。


『ホグワーツ魔法魔術学校に入学を許可されたことをおしらせします』


タイリーのお父さんと、私のお母さんが通っていた魔法学校。今、私とタイリーは日本の魔法学校に通っていた。7歳の頃から通う11年制の学校だ。その点、ホグワーツは11歳から通う7年制の学校らしい。


「…お嬢様、どうなさるのですか?」
「タイリーは、どうしたい?」
「お嬢様の願い通りに」


私の苗字は陸奥村という。陸奥村は、日本の由緒ある純血名家の内の一つだとお祖母様に教わった。

そもそも、魔法を使える人間には、魔法族から生まれる魔法使いと、非魔法族から生まれる魔法使いの二種類に別れるらしい。その中でも純血と呼ばれる人たちは、先祖代々全員が魔法の使える人間で、遺伝的に魔力を持つ血が濃い家を指すのだそうだ。私はその、純血名家の娘である、母親から生まれた。
小さい私にも理解できるように…だなんて、そんな優しい教育は、受けていない。

お祖母様曰く、母親は純血名家としての誇りを忘れ、非魔法族の人間と結婚し、私を産んだそうだ。そのせいで血が乱れ、純血としての濃い血が薄れていると。

つまり、私は純血名家の娘であるにも関わらず、その純血としての血は少し薄い、陸奥村家の次期当主として生まれてしまった。

そんな私には昔から、名前も顔も知らない婚約者がいて。魔法処を卒業したらその人と結婚し、純血として血を正すことを義務付けられていた。


はっきり言えば、そんな人生真っ平御免だ。


「私は行きたい。日本と欧州では使う魔法も違うらしいし」


そして少しでもいいから、この家から解放されたい。それは言わなくても、ずっと一緒にいたタイリーには分かったのだろう。タイリーは首を縦に振り、分かりましたと言った。


「一緒に行ってくれる?タイリー」
「もちろんです、お嬢様」


そこからは、大変だった。私達二人がホグワーツに行くことを大反対するお祖母様に、使用人達。それらを納得させるのも説得させるのも、私達子供二人だけじゃ到底できなくて。何故そんなにも私達を行かせたくないのか。それはよくわからなかったけれど、それでも私達はホグワーツに通いたいと願った。

そんな時、ホグワーツの副校長であるミネルバ・マクゴナガル先生が家に現れた。お祖母様とその方は旧知の仲らしく、なんとか私達二人がホグワーツに行くことをお祖母様に説得してくれたのだ。

そして、入学当日。私とタイリーは大量の教科書と荷物を持って、キングスクロス駅に来ていた。


「おケガに気をつけて」
「体調管理はしっかりとなさってくださいまし」
「タイリーしっかりとお嬢様をお守りなさい」
「はい」


使用人達が私達二人へ声をかけ、何度も何度も手を握り守護魔法やおまじないをかけて行く。そしてもう席がなくなるからと言えば、私達が見えなくなるまで深く頭を下げて見送ってくれた。

コンパートメントを探して、二人で席についてふぅ、とため息をはく。


「お嬢様、疲れてはいませんか?」
「うん、タイリーは大丈夫?」
「はい。俺は大丈夫です」

にこりと笑いながらそういうタイリー。私はタイリーの横に座り、窓の外を見る。動き出したホグワーツ特急に、身を少し揺らしながら、これからの生活に思考を巡らせて行った。

同年代の日本の人たちは、陸奥村の名前を聞いた途端普通には接してくれなくなった。
イギリスまで来れば、陸奥村の名前はそこまで有名ではないだろう(純血以外なら)。
やっと、気楽に話せるような、そんな友達ができるのかもしれない。

そんなことを考えていれば気づけば眠気に襲われて、タイリーの肩に頭を載せて眠っていた、らしい。



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