王子様の思う事。

タイリアナ・シェバンと仲良くなったのはいつの事だったか。たしか今から4年前。ルーン文字学で、僕から話しかけたのだ。話しかけた理由は「グリフィンドールの王様と呼ばれる人間が一体どんな人物なのか知りたかった」から。なぜか僕もハッフルパフの王子様、なんて大層な名前で呼ばれていたからか、同じような名前で呼ばれている人物と知り合いたかったのだ。

実際に、彼と話した時は「確かに王様っぽい」と思った。見た目も切れ長な瞳に黒髪で、どことなく高貴な印象を与えていたし。だけど、フレッド達といるときの彼を見る限りでは王様というよりも「保護者」のようだった。

いつも騒がしいグリフィンドールのテーブルでは、フレッド達双子が筆頭となっていつもどんちゃん騒ぎをしていた。その中で、唯一静かに、かつ宥めるように動いていたのはタイリーだけで、「あぁ、いつも大変そうだな...」なんて思ったっけ。



そんなタイリーは、ヒヨリといつも一緒にいた。初めてヒヨリと話した時のことは覚えてる。いつも遠目からは見ていたのだけど、タイリーに「絶対に紹介しない」と言われていたから本当に気になって仕方なかった。毎年出される成績順位表のなかには、僕の上に陸奥村ヒヨリの名前が書かれていたし、タイリーが毎回話す「お嬢様」の話もあったから。

でもまぁなんというか。いざヒヨリと話した時「あぁ、なるほどな」って納得したのを覚えてる。タイリーはヒヨリのことを話す時はいつも穏やかな目をしていて、本当にこの子の事が大事なんだと思ったから。ヒヨリと話した時も、同じ様なことを思ったから。二人してお互いが大切で、そしてお互いのことを話す時でさえ、優しい目をしていたんだ。




「それに、君達もそのバッチでセドを応援してるつもりか?...あいつの事を、馬鹿にするな」




ヒヨリの為に。ヒヨリの為なら、どんな労力だって厭わない。
僕から見たタイリーの印象はそれだ。いつだって彼は、ヒヨリの事を一番に考えていて。
いつだって、フレッド達の事を見ていて、いつだって誰かの為に動く人だった。


だから、そんなタイリーが誇らしくて、羨ましくて。僕も、誰かの為に、何かの為に動きたいと思ったんだ。

僕には何もない。彼らのように、強い芯というものがない。僕はいつだって、自分の為に動いていた。勉強をするのも、父さんのような魔法使いになりたいから。品行方正だと言われているのは(別に騒ぎたいわけではないけれど)、いずれ将来に関わってくる事だから。




目の前で、名前の知らないスリザリンの生徒に啖呵を切るタイリーを見る。遠くのほうに僕とハリーがいるのを彼はわかっていないのだろうか。一度もこっちを見ずに、静まったこの場の空気を無視して、タイリーはフレッド達を連れ立ってその場を去っていった。

彼の後ろ姿を見送る。まさか、タイリーが僕のためにああやって怒るとは思わなかった。そう、思わなかったのだ。

タイリーにとって、僕は友達の内の一人。きっと彼にとっての親友で、守るべき人物で、動ける強い芯は、ヒヨリにフレッド達だと思っていたから。僕は彼のその中に入っているとは思っていなかった。


なんて言えばいいのかな。どこか僕とタイリーは、似ているようで違う人間だとお互いに思っていたんだ。少なくとも僕はそう思っていた。




タイリーの言葉で続々とバッチを取り外していく周りの人達を眺める。

「君は随分と、やさしい先輩を持ったんだね」

どこか他人事のようなその言葉は、ハリーいどう届いたのだろう。ハリーは隣に立ちながら、僕の顔を見上げて口を開いた。彼の緑に輝く瞳が僕の目を見つめる。その少し幼さの残った顔に笑顔を浮かべて、ハリーはとても嬉しい事を言ってくれたのだ。

「そういうセドリックこそ。タイリーと君は、親友だったんだね」

友達ってなんだろうって、思った事がある。「ハッフルパフの王子様」「セドリック・ディゴリーは品行方正」そんなレッテルを貼りながら、僕に接してくれる人達だってそりゃ友達かもしれないけれど、でもどこか心の奥底はぽかりと穴が空いていた。

きっと、弱い僕の事なんて皆信じないんだろうな、って。
だけどタイリーは、違った。面と向かって、正直に話してくれる。ああやって、人前でも関わらず僕を庇ってくれる。



僕はハリーの言葉を何度も頭の中で反芻しながら噛みしめる。あぁ、そうか。これが、僕の欲しかったものだったんだって。


「...あぁ」

タイリーは、僕の親友だ。

なんだかどこか、ずっと空いたままだった心の隙間が、これで埋まった感覚がした。





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