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三年生になった。三年生になると選択科目が増えて、さらにはホグズミード村にも行けるようになる。今からその「ホグズミードに行くのが楽しみで、ワクワクする」といえばタイリーに笑われたことを思い出して少し恥ずかしくなった。


「あなたたち、こんなに取るわけ?」


と、驚いたように声を上げるのはアンジー。
朝食を食べながら広間で羊皮紙を広げていた私とタイリーのそれを覗き込みながら、目を大きく見開いて信じられないものでも見たかのような顔をしていた。


「なーに?...うっわ〜...」


そして、アンジー越しに同じものを見て全く同じような顔をしたのはアリシア。二人とも綺麗な顔が台無しな顔だ。



「そんな顔されなきゃいけない筋合いはないはずなんですけど?」


と、ここに入学した時に比べたらそれはもう上達した英語で嫌味の一つでも返してみれば、アンジーはおかしそうに笑いながらゴブレットに入った水を飲んだ。(少し顔を顰めたのはそれが水ではなくてかぼちゃジュースだったのだろう)


「そうか...O.W.Lで全科目とるからそんなにぎゅうぎゅう詰めなのね?」
「うん。今年はマグル学と古代ルーン文字学、数占い学と占い学が被ってるからタイリーと分担して受けるの」


そういえば、前に座っているフレッド(多分)が嫌そうな顔をしながら私とタイリーを交互に見て、そしてまた嫌そうな顔をしてそれを押し殺すかのようにトーストを食べた。そんな嫌そうな顔する必要はありますかね?


「おいおいオジョー、そんなことよりも」
「フレッド、そんなこととは何だ?選択科目は重要だろう。お前らもリーを見習え」
「うへぇ〜リー、お前まで成績優秀者の仲間入りになりたいってか?」
「ちげーよ!!自分の得意科目とかで、どれが取れやすいのかとか考えてただけだっつーの」
「それをゴリゴリの真面目ちゃんっていうんだよリー・ジョーダン」
「そんなの基礎中の基礎だろう」
「そうよ、選択科目でミスったら落第だってあり得るのよ?ちゃんと考えてるの?」
「いいんだよそんなの最低の数取れてたら」
「本当この二人がこれでも成績が悪くないっていうのが変なのよね」


と、フレッドが何かを言いかけていたことも忘れるぐらい皆思い思いに口を開いては言葉を交わしていく。日本にいた時、こんなに騒がしいところにいたことはなくて、いつもしんと静まった家にタイリーと二人でいたから、こうやって毎日ガヤガヤと話していたことが新鮮だったあの時を思い出す。


「フレッド、何か言いかけてなかった?」


そしてこうやって逸れに逸れまくってる話題を元にずらすのはだいたい私の役目だったりする。私がゆで卵の殻を剥こうと指を動かしながら口を開けば、あぁと思い出したかのようにフレッドはまた口を開いた。


「そんなことよりもだ、オジ「お嬢様、ゆで卵の殻は俺が剥くので」
「え、いいよ、もう剥けるよ?」
「いいえ、お嬢様のお手を煩わせるわけにはいかないので」
「こうやってみるとあなたたち親子見たいよね」
「親子って、アンジー...同い年だよ?私達」
「ヒヨリは童顔だから余計そう見えるのよ」
「残念ながら日本人は皆この年でもこんな見た目なの。アリシア達が大人っぽいんだよ」
「あら、そんなことないわよ」
「大丈夫ですよ、お嬢様は昔から変わらず可愛らしいままです」
「タイリー、それはフォローでもなんでもねーぞ」
「相棒はオジョーのことになると言葉のミスが増えるよな」
「そんな時はタイリー俺たちが考えたこの」
「「愛を囁きたくなるキャンディーなんていかがかな?」」
「断る」
「バッサリだ!!」
「こりゃひどい!!」


そうやってガヤガヤしていれば、もうそろそろ授業の時間が迫ってきていたため、私達は慌てて立ち上がって教科書類を手に取った。綺麗に剥かれたつるつるのゆで卵をタイリーは笑顔で持ちながら顔の前に持ってきたので、大きく口を開いて半分を口にする。あとの半分はタイリーが食べてと言えば、タイリーは慌てながらそのゆで卵と私を見比べた。


「おいおいグリフィンドールの王様が顔真っ赤だぜ相棒」
「こりゃやばい、お熱かな?」
「お前ら...!!」


タイリーはからかってくるフレッドたちを怒りながら、そのゆで卵をポイと口に含み、椅子をまたいで広間に出る道を進んでいるフレッドたちを追いかけていった。私達も行こうとその後ろを追えば、広間の入り口でタイリー含む四人が待っていて。


「さーて魔法薬学に行くとしますかね〜」
「おやおやリー、楽しそうにしてますな?」
「どこがだよ...」
「Mr.ジョーダンは魔法薬学を楽しめないようだ。グリフィンドール10点減点」
「理不尽すぎるだろう...」


わやわやしながら騒ぐ男達を尻目に、アンジーとアリシアと三人で笑いながら歩く。タイリーは呆れたようにリーたちをみると、先に歩く私に慌てて斜め後ろについて、そのタイリーを追うように、他の三人が動き出す。三年目にもなると、これが通常の形となった私達の定位置だ。


「あ」
「何?ヒヨリ」
「フレッド結局何言いたかったの?」


後ろを歩くフレッドにそう聞けば、フレッドはジョージの肩に腕を回しながらリーをからかっていたその顔をこっちに見せて、一瞬何か考えた後けろっとした声でこう言った。


「忘れた!!」


その言葉に、ジョージ一人は笑いながら、後の私を含む五人は呆れた顔にならざるを得なかった。(話を折ったのは私たちであることを棚に上げておきながら)




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