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今年の夏も例に漏れず純血達のパーティーに勤しんでいたヒヨリ様。俺も彼女付きの使用人の為に彼女のそばを離れずにお守りした。ヒヨリ様が寝に入る頃、今日の務めを終わらせた俺も斜め向かいにある自室に入ろうと歩いていれば、当主のコトヨ様がふと廊下の向こう側に現れ、俺の前に近寄った。
「タイリー少し話しがあります」
「はい…」
当主直直にそう言われてしまえば逆らえるわけもなく。俺は襟元を正してまっすぐと彼女を向いた。コトヨ様は俺の目を見つめながら口を開く。
「タイリー、貴方ももう15になりますね。早いものです」
まるで昔話を語るかのように始まったその話は、簡潔にいうとこうだ。
日本では来年の春に義務教育の終わる俺は、この家の正式な使用人となる。まだまだ庇護される身ではあるが、義務教育は終わる。ついては、陸奥村家の正式な使用人として、きちんとヒヨリ様をお守りしろ、ということ。
「…貴方にあえて言う必要もないとは思いますが、今一度。きちんと、あの子の付き人として彼女の死まで忠誠を誓えますか?」
シンとした廊下。コトヨ様の凜とした声だけが響き渡る。
俺はゆっくり口を開き、もう何度したかわからない礼をする。両手をしっかり腰元で抱え、腰を90度曲げる、目上の人間もしくは支える主人に向けてする正式な礼だ。
「拾っていただいたあの時から、俺の命はとうの昔にヒヨリ様を守る為にあります」
彼女を守る為の誓いだなんて、改めてする必要もない程に、俺は彼女を心底守りたいと思っている。
夏休みも終わり、俺とヒヨリ様はホグワーツ特急に乗っていた。アンジー達とは後で合流できるだろうと、誰もいないコンパートメントを見つけて二人で入る。ヒヨリ様の荷物をそっと置き、ヒヨリ様の向かいに座れば、ヒヨリ様はむっとした顔をして、俺の隣に腰掛けた。
「来年はふくろうだから今年もたくさん勉強しないとだね」
「そうですね...ですが、お嬢様の学力でしたら大丈夫ですよ」
「タイリーという優秀な人がそばにいるからね〜〜」
そう笑顔で言った後、ふわぁーと一つ欠伸をこぼしたヒヨリ様は、少し眠ると言い規則正しい寝息をたてながら俺の肩へ頭を倒した。彼女が起きないよう、俺は身動き一つしないように注意を払って窓の外を向く。
『拾っていただいたあの時から、俺の命はとうの昔にヒヨリ様を守る為にあります』
この言葉は本当だ。本当の気持ちだ。
だけどそれが、使用人としての身分ででしか言えない自分が、心の底から腹ただしい。
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