学校が始まり、新しい時間割にも慣れてきた頃。新しい闇の魔術に対する防衛術の先生を確認することができた。

「先生誰だと思う?」
「さぁ?ギルデロイが大好きな人なんじゃないの?」

先生が来るまでの時間、隣に座るタイリーと話しながら席についていると、前に座っているアンジーとアリシアが肩をすくめながら教科書をふらふらと振ってそう言った。
うちの学年にはギルデロイ・ロックハートという男にうつつを抜かす人はいないらしい。私も同じように教科書を眺めながら肩をすくめる。

「案外本人だったりして」
「ちょっとやめてよヒヨリ...もしそうなら来年のふくろう試験はどうなるのよ?」
「さぁ?一番やばいのは今年5年生の人たちじゃない?」

アンジーとアリシアがその綺麗な顔をこれでもかというぐらいに崩す。よっぽどこの人が嫌いなのだろう。私も、教科書を見る限りでは到底好きにはなれそうにないタイプの人間だけど。
そもそも私が好きな男のタイプはこういう自画自賛タイプの人間ではなくて、イケメンじゃなくても何でも、タイリーのような常にストイックなしっかり者の人間だ。タイリーは顔が整っている部類の人間だけれど。

「とか言ってると...ほら、オジョーの言う通り現れたぞ」
「オジョー、君よく言ってるじゃないか」
「日本は言霊を」
「信じているってな」

隣の机に座っていたフレッドとジョージがこっちをにらみながらそう言う。私はふと顔を上げると、それを見なかったふりしてもう一度机に顔を戻した。隣に座っているタイリーがため息を零して、フレッド達をジロリとにらみながら口を開く。

「お嬢様は悪くない」
「君はいつもオジョーの味方だ」
「盲目過ぎるぜ相棒」

頬杖をつきながらジョージ(おそらく)が言って、それに対してリーが呆れたように首を横に振りながらそう呟く。前に座ってるアンジーたちはそれを聞きながら苦笑いをこぼし、そしてもう一度顔を上げて、また私のように視線を下に戻した。

「ごきげんよう、皆さん。闇の魔術に対する防衛術へようこそ。私が、この授業を担当するギルデロイ・ロックハートだ」

誰だって、これを聞いたらため息を零すだろう。






休日の朝、タイリーと二人で談話室でのほほんとソファーに座りながら過ごしている時、ハーマイオニーが私のところにやってきた。どうかしたのかと聞けば、勉強を教えて欲しいとのこと。まだ新学期も始まったばかりだというのに、本当にこの子は勉強熱心だ。

「図書館にでも行く?」
「えぇ、いいかしら?」
「もちろん。タイリーも行くでしょ?」
「もちろんです」
「ロン、あなたもよ」

談話室の隅の方でハーマイオニーにばれないようにこそこそとしていたロンを、目ざとく見つけるハーマイオニー。彼女のその言葉にロンは抑えるまでもなく「ゲー...」とあからさまにそう零した。私はそれに苦笑をこぼして、ソファーの背もたれにかけていたローブを手に取る。

着ようと腕をかければ、タイリーがそれを素早く取り、私の腕に袖を入れさせて、着替えさせた。彼ににこりと微笑んで、机の上にある教科書と羽ペンを取る。まだ嫌そうにしているロンの前で腰に手を当て『説教』なるものをしているハーマイオニーの後ろに立って、肩に手を置いた。

「いこっか、ロンも」
「マジで...?」
「マージ」

なおも嫌そうにしているロンにウィンクを一つ。そうすればロンは、少し顔を赤くしながらもしぶしぶといった感じで立ち上がり、私たちの後ろを歩き始めた。

「今日はクィディッチの練習あるんだもんね。ハリーも?」
「えぇ。朝起きたら、練習に向かっていくところを見たわ」
「フレッドたちもだ。オリバーが熱心すぎて嫌になるとぼやきながら部屋を出て行ったな」
「アンジーたちも、何回もため息こぼしながら出て行ったよ」
「マジで?ハリー多分わかってないよ。嬉々として出ていったぜ」

上級生と下級生のそのテンションの差はある意味でシュールだ。今朝出て行ったアンジーたちの姿を見るに、結構ハードだと思うから、ハリーの想像を絶する練習ならあまりにも不憫だな、と思わず心の中で合掌。

「...ねぇ、ヒヨリ」
「ん?」

中庭のある隣の廊下を歩いていると、不意に後ろにいたロンとハーマイオニーが足を止めて私の名前を呼んだ。どうかしたのかとタイリーと顔を見合わせて、私たちも同じように足を止める。

二人の見ている方を見れば、中庭に赤色のユニフォームを着たハリーたちと、緑色のユニフォームを着たフリントたちが見えた。

「...もめそうだぞ」

ロンのその言葉にハーマイオニーが頷く。グリフィンドールとスリザリンが会えば揉め事が起きる。それは周知の事実だ。確かに何か言い争いをしていそうだったので、中庭の方に出て行った二人の後を私とタイリーはついて行った。

「新シーカーって?」

オリバーがそう聞くと、スリザリンの人たちの中から、金色に光るプラチナブロンドの髪を持った一人の少年が前に出る。

「マルフォイ?」
「そうさ、それだけじゃない」

後ろの方にいるアンジーたちが、私に気づいて小さく手を振った。フレッドたちもこっちを見ていたため、私とタイリーは後ろの方に行き、どうしたの?と聞く。

「今日はグリフィンドールの練習の日なんだけど、スリザリンの連中がそれを奪い取ったのよ」
「新シーカーの練習のためですって」
「あぁ...それがマルフォイってこと?」
「そう」

マルフォイとハリーが静かに言い争いをしている。それを見ていれば、次にロンとマルフォイが言い争いを始めた。

「ニンバス2001だ、どうやってそれを?」
「ドラコの父上さ」

スリザリンチームには新しい箒が全員に与えられているらしい。それを聞く限りでは、シーカーの立ち位置もお金で奪い取ったのだろう。

「誰かさんの家とは蓄えが違うんでね」

ニヤニヤと性格の悪そうな笑みを浮かべながらロンにそういうマルフォイを、フレッドとジョージも睨んでいる。自分の親をバカにされて、嫌に思わない子供なんていないだろう。

そんなマルフォイに、勇敢にも立ちはだかり反論したのは、ハリーたちの学年のトップである才女、ハーマイオニーだった。

「お生憎だけど、こっちはお金じゃなく才能で選ばれてるの」

その言葉に、グリフィンドールチームの人たちは睨んでいた怖い顔を、得意げな笑顔に変える。その通りだ。アンジーも、アリシアも、フレッドもジョージもハリーも皆。その才能で過酷な選抜試験を勝ち抜いてレギュラーに入っている。心の中で、よくぞいったハーマイオニーとガッツポーズを決めていると、マルフォイが箒を握りしめながらゆっくりと、ハーマイオニーの前に立ち、口を開いた。

そして、言ってはならない言葉をその口から紡ぎだした。

「誰がお前の意見を聞いた?


この、穢れた血め」




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