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夏になり、私は晴れて16歳となった。朝起きたら、アンジーやアリシア、フレッド、ジョージ、リー達からもらった誕生日プレゼントで、私の部屋は埋め尽くされていた。もちろんその中には、私と結婚をしたがる純血の人間たちから来たプレゼントもたくさんあって、寝起きの私には気に食わないものだったけれど。

「お嬢様、お誕生日、おめでとうございます」

毎朝のように、私の部屋の前で頭を下げて待っているタイリーが、笑顔を浮かべてそう言った。私はにこりと笑って、タイリーの前に立ち廊下を歩く。すれ違う使用人一人一人におめでとうございますと声をかけられ、私はそれにも一つ一つ丁寧に返事をした。

上座にいるお祖母様には、ついに婚約をできる歳となったと言われたけれど、ホグワーツを卒業するその時までは結婚はしないとの約束だったために、さわり程度の話をされて終わった。そう、私はついに16歳になった。つまり、日本ではもう結婚できる歳なのだ。

もしも魔法処に通ったままであれば、私の隣には既に見ず知らずの男がいて、濃い紫色の着物を着ていたのだろう。

自分の部屋に戻ってプレゼントを一つ一つタイリーと一緒に確認していれば、綺麗な着物に質のいい帯などがたくさん包まれていた。これらは全部売りに行くとして、問題は誰からもらったのか、である。

「こちらは南の純血の御子息様からです」
「あー...」

タイリーの言う言葉に眉をひそめて頷きながら杖を振る。

「...お嬢様、無言呪文を習得したのですか?」

去年1年間ずっとエバネスコエバネスコエバネスコ言い続けていたのだ。気づいたら、無言で手紙を消すことができるようになっていた。
驚いたように目を見開いているタイリーに、きっとタイリーもできると言ってみせれば、タイリーは着物の裾に潜ませていた杖を取り出した。

そして、無言のまま杖をふるりと一つ回してみると、物の見事に、タイリーの前にあった手紙が消えた。

「ほらね?」
「...お嬢様、申し訳ありません、まだ読んでいない手紙を消してしまいました」

そう言いながら眉を下げるタイリーに、私は思わずぷっと吹き出して笑う。案外タイリーはおっちょこちょいなところがあるのだ。もちろんそんなところはフレッドたちの前では見せないけど。私は手を伸ばして、隣で正座しているタイリーの頭をそっと撫でる。

「気にしないで。元々返事する予定じゃなかったし」

そういえば、タイリーは、ふわりと笑みを浮かべて、困ったように、目尻を下げた。







そのあと、引き続き手紙の整理をしていると、梟が一羽部屋にやってきた。嘴に挟まれた手紙と、小さな包みを受け取って中を見てみれば、それはハーマイオニーからで。
中には綺麗な硝子で出来た万年筆が入っていた。

「...!!綺麗...!!」
「...本当ですね...ハーマイオニーはセンスがいい」

同じように見ていたタイリーも、息を飲むようにそう言って。その褒め言葉がまるで自分が褒められたかのように感じて、とても嬉しかった。

ハーマイオニーのプレゼントをそっと机の上に置いて、手紙の中身を確認する。

『親愛なるヒヨリへ。

誕生日おめでとう、ヒヨリ。去年はO.W.Lがあるのに、裁判資料の集めの手伝いもしてくれて本当に感謝でいっぱいです。ありがとう。そんなヒヨリに朗報があるの。


バッツビークの処刑がなくなったわ。ルシウス・マルフォイが訴えを取り消してくれたらしいの。

これも全部ヒヨリのおかげ。本当にありがとう。学校が始まったら、また改めてお礼を言わせて頂戴』

手紙を丁寧に封筒にしまって、机に置く。
隣で手紙を覗き込んでいたタイリーがそれを視線で追いかけて、私の方を向き、口を開いた。

「...ドラコ、でしょうか」

純血名家の息子としての覚悟を持て、と説いたあの時。彼の中で何かが変わってくれてたらいいとは思った。
自覚も覚悟も足りない甘々の坊ちゃんとして育てられたんだろうなと見ててもわかる彼に、啖呵を切って怒ったけど。内心では、こんなんで変わるわけないだろうなとすこし思っていたから。

私はタイリーの方を見て、肩を少し竦ませてから首を横に振る。

真実は彼のみぞ知る。と言ってみたいところだけれど、それを確認する必要はないようだ。

また新しくやってきた梟が、手紙を持っていた。

机の上に行儀良く降り立ったその梟は、鳥のくせになんだか気品があった。嘴に挟まれた手紙を受け取れば、ホーと一つ鳴いて外へと飛んで行った。

封筒を裏返せば、そこにはD.Mとイニシャルが。中に入っていた手紙には、こう書かれていた。

『誇りは、守った』

ただ、その一言だけがかかれている手紙を、私とタイリーはずっと眺めていた。

だれからきたのかなんてそんな無粋なことを言う必要はない。考える必要もない。なんだかほんのりと暖かくなる気持ちをそのままに、私はまた作業にとりかかろうとした。

けれど、そのあともどんどん流れ込むように来る梟の嵐に巻き込まれて、私とタイリーは大慌てて整理に取り掛かざるを得なかった。ハリーやロン、そしてセドリックからも来た誕生日プレゼントの数の多さに、私はとても幸せな16歳を迎えることができたのだ。



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