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今月もまただ。月が満ちていくにつれて、僕の調子は悪くなっていく。同室の人たちに誤魔化すのも大変になってきたなと思うけれど、こんなこと、やっぱり言えるはずもなくて。

就寝前だというのに部屋を出た僕を心配そうに声をかけるジェームズたちに、大丈夫だと笑顔を浮かべて寮を出る。向かう先は決まって医務室だ。暗い廊下を一人歩く。見回りをしている監督生の人たちに、早く寮に戻るようにと注意をされて、減点される前に医務室に急いで向かおうと足を速めた。

歩けば歩くほど自分の顔が青白くなるのがわかった。早く、医務室で薬をもらいたい一心で僕は医務室の扉を開けた。

扉を開いた時僕の目に飛び込んできたのは、シャツをはだけさせて白い肌を晒している女子生徒だった。黒い髪を肩に流したその華奢な肩には、何かにかまれたような噛み跡があって。マダムがその女子生徒をベッドの後ろから応急処置をしているのがわかった。


「そこにいるのは誰です...!?」
「あ..あの...!!」
「Mr.ルーピン!!ノックぐらいしなさい!!」


マダムの怒鳴り声が上がる。僕は思わずその声に竦み上がって、声をどもらせた。慌てたようにマダムがカーテンを閉じてその生徒を隠す。


「あの...」
「いつもの薬ですね?」
「...はい」
「そこで待っていなさい」


マダムはそう言うと奥へと隠れ、薬を作りに行ってくれた。
僕は、カーテンを閉じた向こうにいる女子生徒が気になって仕方なかった。後ろしか見えなかったし、目にこびりついたようにあの肌が頭から離れなかった。

健全な13歳にとって、あの光景は少し刺激が強すぎたのだ。



「...ごめんね、なんか」
「え...」


そうこうしていれば、カーテンが勝手に開いた。詳しく言えば、女子生徒がカーテンを開いたのだけれど。
そのカーテンの向こうからさっきは見えなかった女子生徒の顔が見えた。そのシャツは第二ボタンまでしか閉められていなくて、胸元には青いネクタイが閉められていた。


「ううん...僕も、ごめん...」
「あ、やっぱり見ちゃった?」
「あ、いや...違う、ごめん」


なんて言えばいいのかわからない。さすがに肌を男子に見られたなんて嫌だろうし、だけど見てませんとも言えるような見え透いた嘘もつけないし。僕は彼女の顔が見えなくて、目をそらして俯いた。


「いいよ、夜だし、もう誰もこないと思ってたから私も、マダムも」


彼女は、そう言ってベッドから立ち上がり、こちらに向かってきた。


「Mr.ルーピン?も、お大事にね」


彼女はそう言葉を残すと、医務室を出て行った。
慌てて後ろを振り向くけれど、彼女はもう扉を閉めて出て行ったようだった。




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