1.


季節は巡って行くもので。気づけばすでに7月を迎えようとしていた。
殺せんせーとお別れしてからすでに4ヶ月。悲しい気持ちは残っているものの、それでもどこか勇気や自信に溢れた気持ちは持ち続けたままだ。

「寺坂くん、お疲れ様」
「おう」

高校生になってからも、私と寺坂くんの仲は変わらず、恋人同士だ。私の高校と彼の高校が近いから、放課後になれば寺坂くんが、私の高校の校門のすぐそばにある交差点で電柱に寄りかかりながら待ってくれている。

校門で待つのは気恥ずかしいらしい。

「帰ろっか」

信号を渡って、寺坂くんのそばに近寄る。カバンの紐を握りしめてそう言えば、寺坂くんは首を縦に振ると、電柱から身体を離し慣れたそぶりで私にその手を差し伸べた。

一つ変わった事を挙げるなら、寺坂君は大胆になった。

私は手を伸ばし、彼の手に自分の手を重ねる。きゅっと、優しい力で包み込まれる。
私の手を全て包むような形の手の繋ぎ方だけれど、私はこれが好きだったりする。

「あと少しで夏休みだね」
「そうだな」
「今年こそはどこか遊びに行こうね」
「どこがいいんだ」
「んー……どこでもいいよ」

歩きながら他愛もない話をする。
去年は一緒に遊べなかったから。今年こそは遊びたい。海でもいいし、映画館でもいい。
3Eの皆と遊ぶ約束もあるし、それもとても楽しみだ。ニコニコと笑いながら、あれもいいこれもいいと片手の指を折りながらそう言えば、寺坂くんが呆れたように笑いながら、ちらりと私を見た。

「…花火は」
「花火…?」

去年、夏の終わりに殺せんせーに花火大会に誘われた。その時は、愛美と行く約束があったから行かなかったけれど、その夜に寺坂くんに偶然会ったんだ。

なんとなく思い出して笑えば、寺坂くんの右手から頭にチョップが振り降ろされた。

「いて」
「なに笑ってんだお前」
「ごめんごめん」

少しボサボサになった私の頭を、そのまま優しくなでつけながら離れて行く右手を目で追いかける。こんな所をカルマくんあたりに見られたら、一生言われるんだろうなと思うと、また笑いそうになった。

「…うん、花火行きたいな」

話を戻そうと、花火を口に出せば、寺坂くんがコクリと首を一つ縦に振った。

「あとは海でしょ、映画館も」
「どんだけ行くんだよ」
「だって折角の夏休みだもん。寺坂くんと沢山遊びたいよ、私」
「来年の夏休みだってあるだろ」

その言葉に、不意に足を止めた。

なんだ?と怪訝そうにこちらを振り向く寺坂くんの手を、私は握り返す。

来年の、夏休み。

あぁ、ちゃんと私との未来やこれからのことも普通に考えているんだなと思って、なんだろう、涙が出てきそうになったのだ。

「どうした、新稲」
「ううん…うん、来年も、あるもんね」
「だから今年に詰め込まなくていいだろ」
「うん!」

もう一度足を進める。
私の歩幅に合わせて歩いてくれる寺坂くんは、昔から一つも変わってなくて。
この足の先が、きっと私達のこれからにも向かってるのかななんて、少し柄にもなくそう思ってしまった。






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