2.


夏休みに入った。殺せんせーによるアルバムでの課外授業のおかげで、夏休みの宿題も夏休み前のテストも完璧ではあった。死んでもなお抜かりない先生で思わず苦笑が溢れたけれど。

さて、夏休みは何があるかというと、夏祭り、花火大会、海、プールなどなどたくさんある。高校生になって初めての夏休みでもあるし、色々したいと思いながらも時間は有限。まずは何をしようかと寺坂君と話そうとしていた初日、私は今マックにいる。

「で!どうなの、寺坂とは」

そう聞いてきたのは莉桜。高校生になっても彼女のいたずら好きな笑顔は変わらない。莉桜はポテトを一つ口に頬張ると、ニンマリとした笑いを見せて前のめりになった。

「卒業してまだ半年も経ってないんだし、そんなに進展はないんじゃないの?」

莉桜の隣では原ちゃんが、少し苦笑しながら莉桜の肩をトントンと叩いている。その手にはハンバーガーだ。

「でも毎日夕方学校に迎えにきてくれてるんですよね?」

私の隣では、メガネを光らせた愛美がそう聞いてきた。その言葉に莉桜が叫びだす。その大きな声に周りにいた人が少しこっちを見たため、落ち着けと3人でなだめた。

「何それ!迎えにきてんの!?寺坂やるなぁ〜!」
「でも寺坂君、面倒見のいい性格だったし納得だよ」
「朝も出来る限り一緒に行ってるよ」

トレイに並べられたポテトを一つつかみ、口に投げれば莉桜のニヤニヤ具合がさらにひどくなった。隣では愛美が、口を両手で多いながら驚いている。

「サチのお父さんは、なんて?」
「一回会わせた時に彼氏って説明してるから…朝になると大体、寺坂君迎えにきたよって言ってくれるよ」
「なにそれー!親公認じゃん!」
「結婚式には呼んでね」
「原ちゃん流石にそれは早いって」
「えーでも絶対二人ならあり得ると思うんだけどなぁ」

3人が勝手にキャッキャっと叫びながら盛り上がっている。結婚だなんて、まだ高校生の私にとってはとてもとても現実的では無い。

「結婚したくないの?」
「まだ高校生だよ?」
「でもほら、法律的にはもう私達できるじゃん」
「全然現実的じゃないし、それ」

ポテトを振りながら面白おかしく言う莉桜に、はぁとため息をつきながらいえば、まあまあと原ちゃんがにこやかにそう言った。

「まずキスもしてないし」

小さい声で、そう言えば。
3人がピシリと固まった。隣に座ってる愛美なんかは眼鏡が光ってる。原ちゃんは目を細めてニヤリと笑うし、莉桜なんかは面白いものを見つけた時のように(まるで渚君を揶揄う時のそれ)目を輝かせている。

「この夏休みでキスしてね!」
「なにその頼み!やめてよ!」

ランランとしながら言う言葉じゃないだろう。
前のめりになってそう言った莉桜から、体を離すように椅子の背中に自分の背中を仰け反らした。

「でも良い報告待ってるよ」
「やめてよ恥ずかしい…」

赤くなるのが自分でもわかる。思わず小さい声でそういえば、莉桜は今までの悪戯な表情を抑えて、優しい笑顔を見せた。
彼女の隣に座る原ちゃんも、私の隣に座っている愛美も、同じように笑みを見せた。

「でも、二人が変わらずにいてくれててよかったよ」
「本当にね。仲良くしてて、私も嬉しい」
「何かあったら言ってくださいね?」
「奥田ちゃんの言う通り!相談するんだよ、サチ」

ポテトの先を私にビシッと向けながら、そう言い切った莉桜は、そのままそれを口に投げてもぐもぐと頬を動かした。

「うん、ありがとう、3人とも」

高校生になったからといって何もかも全てが変わるわけじゃない。目の前にいる親友達は、見た目こそ少し変われど中身は何も変わってなくて。

「あーー安心するわーほんと」
「わかるー!」

腕をぐーっと前に伸ばしてそう言い合うことの、安心たるや。いまならいつかの授業で出てきた触手なりけりで終わらせる俳句も作れるようなそんな気がした。
多分無理かな。







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