21.


「お前らって今どうなってんの?」
「いや普通に付き合ってますけど」

皆の就活が終わって、年に一度必ず集まる3Eの会に出席した。毎年毎年参加できるわけではないけど、私は就活がなかった分今年はきちんとお手伝いしなければ。あの時に皆で買ったこの山を、皆でお手入れをするなんて、殺せんせーもきっと喜んでるだろう。いつもここにくるたびに、そんなことを思っては笑ってしまう。

岡島の言葉に、一度手を止めた。ボロボロになってる窓に釘を打ちながら、はぁ?と呆れた声が出た。

「だって一回もお前ら二人揃わねーじゃん」
「仕方ないでしょ、お互い色々あるんだから。今日は竜馬だって用事あるし」

去年は私が学会あったから。その前はなんだったか忘れたけど、高校の時は二人で来てたでしょと言ったって、こいつは納得をしないのだ。
まだ付き合ってんのか、まだお前ら一緒にいんの。彼女のいないモテない男は大変だねと呆れながら返してやって、もう一度釘を窓に打っていく。

「サチはそのまま院に進むんだっけ?」
「うん、修士いくよ」
「院に進むのお前だけかな」
「え、千葉君は?」
「オレは進まないことにした」

そうか、そうなのか。8年前のあの日、皆で思い描いた夢に一人一人が確実に近づいてる。渚君も教師になるべくしてなっていってるし、カルマ君に至っては国家公務員。竜馬も政治家に近づいて、皆の夢がこうやって現実になっていくのを見るのは、感慨深かった。

私はきちんと近づいているのだろうか。なりたいと思ってる数学者に、近づけているのだろうか。

「てかアドバイスブックどこまで見た?」
「全然、半分もまだ見れてない気がする」

卒業する時にもらったあの分厚い本を、岡島の言葉で思い出す。竜馬と同棲する事が決まって、二人で引っ越しの準備をしていた時に、一番置き場所に困ったのがあれだった。

分厚いあれをどこに飾るか。漫画本や参考書の隣に並べてもどう考えても違和感のあるそれに、二人してため息を吐いた数も何回か。

結局今は床に放置されてるあれを、私たちは寝る前に1ページずつしっかりと読み進めているのだ。

「あの中にさ、誰かが結婚したら読むところってあんの知ってるか?」

前原くんがそう言ったのをきっかけに、全員が一度作業を止めて顔を上げた。真ん中より先の方、最後に向けてあるページに、国家秘密とまで書かれた黄色のページがあることを、私たちは全員知っていた。

「あれ、絶対新稲達の事だと思ってんだけど、俺」
「いややめてよそう言うの」
「なんでだよ!」

男っていうのは何歳になってもそういう話が好きなのか。誰と誰が付き合ってるとか、私は中学生の頃から興味なんてなかったんだけどな。

私が興味無かっただけで、ひなのとか他の皆は確かに興味津々だったのを思い出した。

「寺坂君とは結婚しないの?」

原ちゃんがニヤニヤしながら、私の頭を突いてきた。真っ黒の髪をたらしながら、今は有名な
朝ドラ女優になって茅野っちまで、面白いものでも見るかのように私を見ていて。

あんなに照れながら渚くんと話をしていたくせに、今は敵かと茅野っちからそっぽを向けば、彼女は少しだけ焦ったようにサチ〜と情けない声を出してきた。

全員の手がとまってる。ちゃんと作業をしないといけないのに。私たちが買った山に捨てられているゴミとか色々、集めていた手をパンパンと叩いて。

「やめてよ、竜馬に変なプレッシャーかかるじゃん」

と、声に出す。

結婚したくないかと聞かれたらそんなわけないじゃないか。でも、それを女から言葉にするには、あまりにも彼が可哀想だ。こちとらもう八年も付き合っているのだから、彼の責任感の強さは知っているし、そして意外にメンタルが弱いことだって分かっていた。

それなのに、彼女達は更に黄色い声をあげた。もしもここに殺せんせーがいたなら、あの人もきっときゃー!と大きい声を出していただろう。

「結婚式は全員呼んでよね!」
「政治家でしょ、きっと大きい所で挙式かなぁ」
「まだ政治家じゃないんだっけ?」

女子の盛り上がりに、男子の盛り上がり。性別が違えばこうも変わるかと呆れもする。

それでも胸に広がるのは何となく、もしも竜馬に結婚しようと言われたら、なんて未来の妄想で。

プロポーズなんてされたらそりゃぁ、即答に決まってる。

一人でかんがえてにやけるなんて、皆に説教する立場にはなれないと、同じように笑いながら少しだけ恥ずかしくなってしまった。





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