「レオナの誕生日のために、サラダちゃんが来てあげましたよ〜」
「……誰も呼んでねーだろお前のことなんざ」

レオナさんには彼女がいる。夕焼けの草原には似つかわしくない白い肌と黒い髪のあの人は、いつも俺達が目を瞬きさせるその瞬間に、レオナさんの前に現れる。
真珠のようなキラキラ輝くものを散りばめて、唐突に現れるその姿はさながら天使のようで。中身は流石は商人、あのアズール君にも負けないほどの損得勘定で生きている人だ。誰が天使だ、こいつは天使ではなくどちらかというと悪魔見習いだろうと、レオナさんが笑っていたのを思い出す。

「今日は俺達が呼んだんっスよ〜!っしし、レオナさんのために!」
「…はぁ?」

白いジャケット。今日の主役はというよりも、今日の主役"も"貴方です寮長。俺達は腕を広げて、真っ白のドレスを身に纏ったサラダさんをレオナさんの前に押し出した。

サラダさんがいくら商人の性格を持っていても、レオナさんがいくら悪態をつこうとも、この人は紳士の血を引き継いだ我らが王なのだ。レディーファーストというよりは、なんだかんだでサラダさんファーストのこの人を、俺達はきちんとしっていた。

恋人でしょ、なんなら将来を誓った仲でしょう。その左手に光る指輪は、いつだってあんたら二人の関係を示唆するものだ。

レオナさんは呆れたようにため息を吐くと、サラダさんの手を引っ張って自分の隣に引き寄せた。今日は俺達がわざわざ呼んだ。だから消える事はないのに、その手には力が入っていて、青筋さえ立っていた。

「おいおい誰だ、こいつに白のドレスなんか着せたのは」
「ラギー君が白のドレス着てこいって」
「え、ダメでした!?」

夜に見るサラダさんは大体裸だ。タオルを体に巻いた状態で一度だけ談話室に現れた時は、流石に固まった。レオナさんの女じゃなかったらこの人マジで今頃食べられてるぞと呆れるぐらいの無防備な格好、そんな姿が殆どの中、一度だけ仕事中の格好で現れた事があったのだ。

ばっちり決めたメイクに、シルクの綺麗な白色のドレスを身に纏って、背中がばっくりと空いてるセクシーなやつ。あの姿を見た時の他の男達の顔なんて、気持ち悪さに眉を顰めたくなるぐらいの蕩け具合だった。

女に飢えてる男子校とは言え、あの顔は流石にないだろう。
呆れはしたけど、かくいう俺もあの姿はびっくりした。この人、ちゃんと服着るんだ。マジで最初にそう思った事を忘れてない。

忘れてないと言えば、その姿を見た時のレオナさんの顔が怖かったのだ。瞳孔を開ききって、まるで獲物を見つけたかのような目つきでサラダさんの肩を抱いて消えたあの姿。

あぁ、食べられちゃったかと思う程の食らいつき。きっとこのドレスはレオナさんのお気に入りなのだろうと思った。

ならばこうだと考えた。レオナさんの誕生日プレゼントにあの人の大好きなサラダさんを呼んで、あの人が理性をぶち壊すぐらいお気に入りの服を着せて、プレゼントとして渡してしまおうと。

「裸で渡せ、どうせ脱ぐんだ」
「さいってーセクハラじゃないマジで?」

ノリノリじゃん。焦って損したわ。

レオナさんはサラダさんの腰に手を回すと、その手をばっくりと空いてる背中から、ドレスの中へと忍び込ませた。ピッタリとしてるドレスからでもわかる、その手が何やら動いているのをジトーっと見つめながら、俺は大きいため息を吐いた。

はいはい、お幸せに。誕生日プレゼントとして申し分ないのを渡したのだから、後でなんかご褒美くださいねと、手をひらひらと振りながら二人のいる場所から離れる。

他の男達がぼーっとサラダさんを眺めていた。あぁ、でもわかるっちゃわかるのだ。あの二人をなぜかぼーっと見たくなるのも。レオナさんの素直な笑顔なんて滅多に見れない。サラダさんの商人としての話も面白い。気づけば俺達獣人の心まで奪ってるんだ、旅商人は恐れ多い職業だと、背中を震わせながらそう思った。
月見酒
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