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学校帰り、お父さんの研究室に寄ろうと思って大学に入った。約1年来ていなかったけれど研究室の場所は変わっていなかったし、ドアの前に貼られている紙には、お父さんや生徒さんたちの名前の書かれたマグネットが貼られていて。お父さんの名前のそれは、きちんと在室中のところに貼られていた。

ドアをノックして入ろうとすれば、不意に外から聞き慣れた声が聞こえて、なんとなく気になって窓に近寄ってみれば、草むらに隠れてこそこそと窓を伺っていた寺坂くん、カルマくん、莉桜、愛美、原ちゃんの五人がいた。なんとも珍しいそのメンツに、私は呆れ半分驚き半分でため息を零す。


「そんなところにいたら怪我するよ?」


なんでここにいるのと安易に聞けば、寺坂くんがおもむろに口を開こうとした。その時、廊下の端の方から人が数人歩いてくる気配がしたため、私は慌てて窓を飛び越えて、外に出る。ガサリと音を立てて皆と一緒に草むらに隠れる。


「どーかした?」
「ちょっと...」


カルマくんが不思議そうに聞いてきた。彼の方には顔を向けずに、窓を睨むようにしたから睨みあげれば、歩いていた三人の男の人は窓に背中を預けて、話し出す。


「それにしても新稲はもう終わりだな」
「あんなんじゃ次の教授選も期待できないな」
「あぁ。0を1にする理論だか知らないが...人を生き返らせるなんてことが証明できるわけがない」


その言葉に、私は拳を握りしめた。あぁ、変なところを見られてしまった。自分のお父さんの悪口を言われているところを。

お父さんは本当はすごい人なんだ。誰にでもわかりやすく説明をするし、とても綺麗な回答で数学を解くし、論文だってバンバン出して。次の教授はきっとお父さんだって、ずっと言われていたんだ。

だけど。去年の秋。お母さんを襲ったあの事故から、お父さんは変わってしまった。


「もう無理だろ。国のお金の問題もあるしな」
「生徒たちも辟易としてるよ」
「奥さんが亡くなった事は、残念だとは思うけどな...」


そう話して、その三人の男性は去っていった。わざわざお父さんの研究室の前で話さなくたっていいじゃないか。悔しさに涙が出そうになる。慌てて袖で目元を拭えば、心配そうな顔で私を見つめる五人がいて。思わず笑ってしまった。




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