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「あっれ、新稲ちゃんは?」
真っ先に走って坂を下りていった渚がいないからか、カルマが俺の肩に腕を回して無理やり引っ張る。一人で帰れよとぶつくさ言ってなんだかんだで下の方まで行けば、奥田、中村、原の三人が固まってそこに立っていた。
「あぁ、なんか行く所があるんだってさ」
カルマの声掛けに中村が答える。
いつもなら右に向かうはずなのに、新稲の背中は左の道に小さくポツンと見えていた。三人は帰ろうとしていなくて、何かあったのかと俺が聞けば、おずおずといった雰囲気で奥田が口を開いた。
「なんとなく、サチちゃん、元気がないように見えて...」
「進路相談の時からなんか元気ないんだよねー...」
「どうしちゃったんだろうね...」
顔を合わせながらそう言う三人の口からはため息がこぼれていて。そんな三人を見ていたカルマが不意に口を開いて「じゃあさ」と言った。
「尾ける?新稲ちゃんの後」
どうしてこうなった。
カルマの言葉に「何言ってんだ」と俺はいったハズなのに、いつもならそれを抑える側の人間のハズの奥田と原がやけに乗り気で、俺だけ拒否して帰るわけにもいかなくなって仕方なく俺たちは新稲の後を尾行していた。なぜか俺を盾にして。
「なんで俺が前なんだよ」
「寺坂でかいからいいだろ」
「ちょっと見えないからしゃがんで寺坂」
わがままばっかり言うこのトップツーに比べれば原と奥田はいくらかマシだ。
俺はため息をつきながら、もう一度前にいる新稲の背中を確認しながら電柱から電柱に移動する。
「どーこいくんだろ、新稲ちゃん。この道って大学に続く道じゃない?」
「もしかして大学生の彼氏でもできたんじゃない?」
いちいちニヤニヤとした顔でそう言う二人に腹たつ。奥田と原はまぁまぁと言いながら二人をなだめているが、青筋立てている俺のことを無視して、カルマと中村はケラケラと笑っていた。
「つきましたね...」
奥田がそう言って、もう一度あいつの背中を見れば、新稲は数理科学研究所と書かれている門を通り抜けていた。俺たちも慌ててそのあとを追い、中に入る。
大学のキャンパスのように広い土地が開けて見え、行き交う人たちから好奇な視線を不躾に投げられた。制服を着ているからだろう。新稲にばれないためにも必要以上にばれてはいけない。俺たちは木の後ろに隠れたりしながら、ゆっくりと新稲との距離を詰めていった。
「建物の中に入ったね...どうする?」
「1階みたいだし、外で追うか」
中村とカルマの言葉に俺たちは音を立てないように草むらの中に隠れて、廊下を歩く新稲に沿うようにして移動をした。すると、新稲はとある部屋の前に立ち止まった。必然的に俺たちもその場に止まる。何か意を決したように拳を握って、扉をノックしようとその手を持ち上げた時、原のやつがくしゃみをした。
「はっくしゅん...!!」
慌てて口を自分で抑えたり中村や奥田が抑えるも時すでに遅し。新稲は呆れたような笑みを浮かべて、窓のそばにたち俺たちを見下ろしていた。
「なーにやってんの、こんなところで」
とりあえず言いたいことは一つ。俺を盾にすんなお前ら。
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