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寂しいと泣いていた新稲を知っていた。
普段は笑いながら飄々としている新稲が、涙を流していた。

それに対して、俺に何ができるのか。できることは一つだけ。あいつの頭を撫でて、安心させることしかできない。



目の前で泣きながら抱きしめ合う二人を見て、少しホッとして、同時に何かが抜け落ちる感覚がした。寂しいと泣いていたのは、俺を頼ってくれたからだと、嬉しかったのだ。それが解決してしまったら、きっと新稲はもう俺を頼ることはないんじゃないだろうか、と。


「...サチちゃん、これで元気が出るでしょうか」
「さぁ...でも、多分きっとこれで吹っ切れたんじゃないかな」
「うんうん」


あの時一緒に尾行をした奥田、中村、原の三人が二人を見ながら笑顔を浮かべていた。
他のクラスの奴らも、特に詳しいことはわかっていないにしても、父親と泣きながら抱きしめているその姿を見て何か思うところがあったのだろう。

鷹岡がこのクラスに来た時、父親と言う言葉に過激に反応して、殴られた事件があったから。
その時から、何となく新稲に父親の話をするのはタブーだと言う暗黙の了解がE組にはあった。だから詳しく聞こうと思った人間はいない。と、思う。


「...なーんだよ寺坂、おもちゃがとられた子供みたいな顔してさー?」


窓のそばに立って、二人をじっと見ていれば、カルマのやつが俺の隣に立ち、俺を見上げていた。あの腹たつ笑顔を浮かべて。
俺はこめかみを震わせながら下を見下ろせば、カルマはケラケラと笑いながら俺の肩に腕を回した。


「だーれもお前の新稲ちゃんを取ったりしねーって。安心しなよ」
「あ!?」
「何々、嫉妬?寺坂」


そのカルマの言葉に、中村が地獄耳を立ててこっちに近づいた。またメンドクセー奴らがやってきたと俺は内心ため息をつく。


「寺坂もやっと自覚してきたってことかね〜?」
「いいことじゃん」


その二人の会話は、俺だけじゃなくクラスの連中にも聞こえていたようで。前原や倉橋がこっちを意味深に見つめていた。俺は父親と手を振ってこっちに戻ってきた新稲に気づいて、そっちを指差して、新稲が戻ってきたことをクラスの奴らに教えた。


「ごめんなさい先生!!」
「大丈夫ですよ、新稲さん。解決は、できましたか?」
「...はい!!」


まだ少し濡れている睫毛を揺らして、今まで見せてきた中で最高に輝いてる笑顔を浮かべて、新稲はそういった。詳しいことはわからないまでも、そんな新稲に元気が戻ったことが嬉しいのか、女子は皆新稲の元に走り寄って、各々抱きしめたり頭を撫でたりと新稲をもみくちゃにしていた。

すると、中村が何か新稲の耳元で言うと、不意にこっちを向いた新稲と目があった。隣に立っているカルマが何かに気づいて、俺の隣から立ち去り、ニヤニヤとした笑顔を浮かべて、中村の隣に立つ。


「...んだよ」


呆れながらそういえば、新稲は俺の前にゆっくりと歩み寄り、俺の顔を見上げる。新稲ごしに見えた後ろは、クラスの奴らがタコ野郎を筆頭にしてにやけながらこっちを見ていて。「寺坂くん」と俺の名前を呼ぶ新稲の顔を見下ろして、そっちを向けば、新稲は笑顔を浮かべながら俺の目に目を合わせていた。


「...なんだ?」


気恥ずかしい気もしないでもないけれど、努めて優しく。そう声をかける。


「ありがとうね」


その言葉に、俺は頭を掻きながら一言「おう」とだけ言っておいた。
そんなのが照れ隠しだということは、新稲だけじゃなくクラスの連中も、タコ野郎も、もちろん俺も、わかっていた。




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