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学祭も終わり、ついに期末試験へと時が流れて行った。学祭でのウキウキとした気持ちはどこへやら、E組ももれなく全員どことなく緊張感を漂わせている。この前の試験はE組ぼろ負けだったしね。今度こそ、私も他の教科で頑張ろうと思ってる。


「さぁてこの1年の集大成。いよいよ次は『学』の決戦です。トップを取る心構えはありますか?カルマ君」


殺せんせーの言葉に、クラス全員が後ろにいるカルマ君に注目する。私は隣だから、視線をちらりと横にズラすだけだ。

彼は、ポケットに手を突っ込みながら椅子を後ろに傾けて生意気に口を開いた。


「さぁねぇ...バカだから難しい事はわかんないや」


なんともカルマ君らしい答えに思わずくすりと笑い声を零せば、他の皆も笑っていた。確実に1位を取れるのはカルマ君以外にはいないし、彼の学力の高さはクラス皆が信頼していいるから。


「1学期の中間の時先生は、クラス全員50位以内という目標を課しましたね。あの時のことを謝ります。先生が成果を焦りすぎたし、敵の強かさも計算外でした」


教壇の前に立ち、殺せんせーが言う。


「ですが今は違う。君達は頭脳も精神も成長した。どんな策略や障害にも負けず目標を達成できるはずです。堂々と全員50位以内に入り、堂々と本校舎復帰の資格を獲得した上で、堂々とE組として卒業しましょう」


この上ないほどにA組への皮肉にも捉えられるし、それに自分自身の自信にもつながる。改めて言葉にしてそう言われると、やる気が出てくるものだ。
その時、前に座っている杉野君が殺せんせーに言った。


「そう簡単にうまくいくかな...」


彼が言うには、A組の担任が変わったらしい。その新しい担任は、この学園の理事長。ある意味でのラスボスだ。


「正直あの人の洗脳教育はうけたくないよ。異様にカリスマ性と人を操る言葉と眼力」
「授業の腕もマッハ20の殺せんせーとタメを張るし」


そもそも殺せんせーは化け物の類だからこそできることなのに、そんな殺せんせーと同じように授業するなんて、浅野理事長凄すぎるだろ。


「...そこで先生は皆さんに提案をします」


まさかのラスボス君臨で、怯えてる私達を前に、殺せんせーは一人にやにやといつものように笑いながら指をぴんっと1本立てた。


「今回の期末試験は、受験前の練習でもあります。皆さんの得意科目を皆さんで教え合うのはどうでしょう?」


そう、例えば誰にも負けない唯一無二の強敵である新稲さんが皆さんに数学を教える、とか。


殺せんせーはそう言うと、私の目をじっと見つめた。いきなり名前を呼ばれればびっくりするもので。隣に座るカルマ君が不意に口笛を吹いて「いいねー」なんて言った。


「それ最高だよ先生...新稲の数学の解き方を教えてもらうんだろ...!?」
「ある意味数学の神でもあるサチに教えてもらえれば向かう所敵なしじゃない...?」


わちゃわちゃと皆が言ってる言葉が遠くに聞こえる。いやいや、私そんな大層な人間じゃないしそれに教えられるほどに知識も豊富じゃないのに。慌てて立ち上がり、そんなの無理だと言おうとすれば、それを止めるかのように殺せんせーはさらに口を開く。


「理科なら奥田さん。英語なら中村さん。幸いにもE組には、A組にも負けない程の学力を一つの科目に持っている生徒が沢山います。先生はね、その教科を誰よりも理解するためには、教える事が大事だと思っています」


確かに、その教科を教えられればその教科を分かったも同然と言うし。一番の授業なのかもしれない。
でもやっぱり教えられる自信があるのかときかれれば、その答えはノーだ。


「俺は賛成だ」
「俺も、賛成」


前の方に座ってる前原君や磯貝君がそう言えば、全員が賛成だ、やってやろうなどと同意の言葉を出し始めた。
確かに苦手な英語を莉桜に教えてもらえるならありがたい。私もできる限り、自分の力を貢献してあげたいし、頑張ってみようと思った。









本当に先生の言った通りに、教える事になってしまった。放課後、期末試験に備えて教室で残ってる人達でグループを作って、数学が分からない人達に向けて数学をおしえる。何故かその中にはカルマ君もいてびっくりだけど。貴方得意でしょ。


「...で、こうやって考えれば簡単でしょ?難しく考えれば考えるほど、数学はどツボにはまっていくから気をつけてね」
「なーるほど...新稲の頭はいつもこんなシンプルなのな」
「意外だった。もっと複雑な事考えてるのかと...」


数学は案外シンプルな教科だ。解答用紙はいかに綺麗に書ききるかが私の課題だし、それに複雑に考えるのはどの教科でもあまり無いだろう。難しく考えるから、嫌いになる。それはやっぱり、どんなものでも当てはまるもので。

お父さんとの関係も、そうだった。私が素直にならないから、難しく考えすぎたから。
そんな前例もある事にはあるからこそ、今の私には悩みがひとつだけあった。

吉田君や村松君がこのグループの中にいるにも関わらず、一人だけ彼は教室の奥で勉強をしていた。夏らへんの頃だったら考えもできなかった姿だ。


「...寺坂、来ないねぇ〜」
「何、カルマ君」


頬杖をつきながらにやにやと笑って私の肩を小突く彼を睨む。
カルマ君は、ちらりと寺坂君の姿を見た後、また私に視線を戻して今度は少し悪戯っ子の様な感情をなくして笑いかけた。


「ま、あいつも素直じゃないって事だな」
「寺坂はツンデレだしな」
「そうそう、いざという時に動けねーんだよ」


カルマ君の言葉に吉田君と村松君が続けて言う。なんだか当たり前の様に寺坂君の話をしてるけど、なんなの。


「サチはこんなに素直なのにね」


ひなのがふわふわの髪の毛をゆらしながら、私のほっぺを突いた。その指をどけようとはせずに、その言葉を無視する。ニコニコと私に笑いかける彼女のおでこに指をぴんっと放てば、ひなのは可愛らしく目を閉じて手をおでこに当てた。


「大丈夫大丈夫、寺坂が動き出すの待っとけって」
「それか俺がなんかやっとくか?」
「「「それはやめろ」」」


この間、私は一切口を出してはいない。
前原君のしゃしゃり出ようと丸見えのその言葉に、机をガタガタと鳴らしながら直している全員が声を揃えてそう言った。彼らの助言も手助けもありがたいものだけど、当たり前のように話してくるこの空間に殺せんせーがいない事が唯一の救いだろうか。


「...あのさ」


思わずため息をついて腕を組み口を開く。彼ら(彼女もいる)は私の顔を振り返ると、その顔にニヤリとした笑みを浮かべた。


「何も言っちゃダメだからね?」


念を押すようにそう言えば、「分かった」と口を揃えていう彼等。
でもきっと言葉だけだろうな、と思う。だって皆、にやにやと笑っているから。

大人しく見守る事も出来ないのか。味方を探そうと、他の所で島を作っておしえていた愛美や原ちゃん、(味方になるかは分からないけど)莉桜を見れば、彼女達もどことなくニヤリと笑っていた。



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