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目の前に差し出された手榴弾入りの参考書。教師にとって解かなければいけない問題に、死がまとわりついている。立ち尽くしている理事長をみて、全員がしっかりとした口調で思いを言った。


「私達は殺せんせーについていきます」
「家出してでもどこかの山奥に篭ってでも、僕らは三月まで暗殺教室を続けます」


私達の気持ちに泣いている殺せんせーをちらりとみたあと、理事長は静かに言った。


「今年のE組の生徒はいつも私の教育の邪魔をする。私の教育論はね、あなたが地球を滅ぼすなら、それでもいいんですよ」


そう言ったあと、彼は問題集を迷いなく開いた。





「ヌルフフフ」




殺せんせーの笑い声が聞こえ、光に包まれ爆発するはずだった教室内には、理事長が無傷のまま床に座り込んでいた。


「私の脱皮をお忘れですか?脱いだ直後の私の皮は、手榴弾の爆風ぐらいなら防げます」
「月に一度の脱皮...か。何故それを自分に使わなかった?数学の爆弾をひらくときに使っていれば、そんな洋ナシみたいな顔にならずにすんだものを」
「あなた用に温存してました。私が賭けに勝てば、あなたは迷いなく自爆を選ぶでしょうから」


ゆっくりと一人で立ち上がった理事長は、静かに「何故そう断言できるのか」と言う。でもそれは、なんとなくだけど私にも分かった。


「似た者同士だからです」


意地っ張りで頑固で教育熱心でどこまでも自分の教育に自信を持っている。二人は本当に似ていると思う。


「私があなたと比べて恵まれていたのは、このE組があった事です。まとまった人数が揃っているから、同じ境遇を共有しているから、校内いじめに団結して耐えられる。一人で溜め込まずに相談できる。私もあなたも理想は同じです。殺すのではなく生かす教育。これからも...お互いの理想の教育を貫きましょう」


理事長に何があったかは知らない。だけどかれもまた殺せんせーのメンテナンスを受けたようだ。さっきまで見てた笑顔とはちがって、優しそうな笑顔がその顔にはうかんでいた。


「恩情をもってこのE組は存続させることにします。それと。たまには私も殺りにきていいですかね」
「もちろんです。好敵手にはナイフが似合う」


まるでライバル同士の戦いかのように、その二人の勝負はなんとなくさわやかなものに見えた。













「そういえばもうそろそろ演劇発表の期間だよね」


なぜか、私と寺坂くんが付き合いだしてから寺坂くんは当たり前のように帰るぞと言いながら私の近くに来るようになった。それをニヤニヤわらいながら見つめる莉桜に原ちゃん、愛美。そんな3人の視線を一身に受け止めてるのにもかかわらず平常心の寺坂くんがなによりも意外だ。


「あぁ、そんなもんもあったな」
「裏方とかでいいんだけどな〜」
「受験も近いしな」
「そうそう。さすがに受験のほうが大事だしね〜まぁなんとかなりそうだけど」


鞄を肩にもう一度掛け直してゆっくりと歩く。なんとなく彼の方をみてみれば、寺坂くんもこっちを見ていた。


「...ん?」
「いや...」
「なーに」
「...高校いってもよ」
「うん」


寺坂くんが足を止めて、私の方をじっと見つめる。隣で同じように足を止めて寺坂くんの目をじっと見つめれば、寺坂くんは口を開いたり閉じたりと繰り返したあと、ゆっくりと口を開いて言葉を出した。


「...迎えに行くわ」


その言葉がなんとなく。周りに誰もいなくてよかったと思うぐらいには、独り占めてしたい言葉だった。


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