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「演劇発表かー...」
「よりによって2学期末のこの時期になぁ」


そう。冬休みが目前にやってきている今、学校行事の一貫としてなぜか演劇発表が行われる。概要として配られた資料には、お弁当タイムwith3-Eと書かれていて、ここでも学校内いじめが起きていることに辟易とした。
それでも、少し浅野くんは変わったようで、『君たちならなんとかするだろ』とかなんとか言っていたらしい。

表向きは変わっていないようで、それでもどことなく認められているようなこの空気が、私は結構好きだったりする。


「よーし、やると決めたら劇なんてパパーっと決めようぜ!」
「とっとと台本きめちゃおう!」


吉田君と原ちゃんの言葉を先頭に、全員で何か案はないかと思案した。


「茅野さんは?児童施設で演じた劇すごい子供にうけてたよ」


神崎さんの言葉に私も愛美もうんうんと頷けば、茅野っちは少し照れたように笑った。そんな茅野っちの頭をどしどしと叩くのは寺坂くん。


「中学生には通じねーだろ。幼児体型のやつに感情移入できないからなぁ!!ブキャキャキャキャ!!」


そうやって笑ってる寺坂くんの後ろに回り込み彼のクビにうでを伸ばして、羽交い締めする。その隙を狙って茅野っちが箒を取り出して彼の頭にこぶができるぐらい思い切りぶっ叩いた。人がコンプレックスに思ってることを馬鹿にするものではない。私は腰に手を当ててムッとした顔で彼を睨み、そして茅野っちとハイタッチを交わした。


「サンキューサチ!私は小道具やりたいかな...皆の役割は?」
「監督は三村、脚本は狭間さんが適任だと思うけど、主役は?」


私が手を挙げてそう発言すれば、じーっと紙を見ていた殺せんせーが一言。


「先生...主役やりたい」


その一言に全員で立ち上がり暴言を吐く。この状態でよくやりたいと言えたなこのタコ!!


「やれるわけねーだろ国家機密が!」
「そもそも大の大人が出しゃばってんじゃねーよ!」
「だ、だって!先生劇の主役とか一度やってみたかったし!皆さんと一緒に同じステージに立ちたいし!」
「いーわよ書いたげる。殺せんせー主役にした脚本」
「できるの?狭間さん」


優しい狭間さんの言葉に思わず私が驚いて聞いてみれば、彼女は「標的や暗殺仲間の望みを叶える。それぐらいなら国語力だけの暗殺にもできることよ」と言った。依然として数学しか能のない私には出来ないことだったけれど、狭間さんがそういうんだ。できるのだろう。


「新稲、あんたにも手伝ってもらいたい」
「え?」
「モバイル律の、ボイスチェンジャーなんて開発できる?」
「うんうん、できるよ。欲しい声の特徴とか教えてくれれば」


狭間さんとこうやって笑顔で話してるのが少し不思議な気分だった。彼女に頼られている、という所にも。なんだかむず痒い、そんな嬉しい気持ちがほとばしって、私は笑顔で首を縦に振った。








結果として劇は大成功だったのではないだろうか。ものすごい暗い話(狭間さんらしい)だったせいでほかのクラスの人たちから大ブーイングだったけどね。

小道具やら何やらを片付けながら、全員であーだこうだと話していた時。その音は突然鳴り響いた。


「!?何!?」


誰の言葉が最初だったかはわからない、グラウンドの方で聞こえる大きな地響きのような音に、全員で慌てて外に飛び出した。そこにいたのは殺せんせーと、


「茅野っち...?」


ただ、いつもとちがうところをいうのなら、彼女の首からのびているその触手だった。


「あーあ、渾身の一撃だったのに。逃すなんて甘すぎだね...私」


いつもとは違う彼女の声音に思わず私は、肩をびくりと揺らした。


「茅野さん、君は一体...」
「ごめんね、茅野カエデは本名じゃないの。雪村あぐりの妹。そう言ったらわかるでしょ?人殺し」


その名前に覚えがあるのは、前からこのクラスにいた人たちだ。
去年の秋このクラスに落ちたときは違う担任だったけど、でも今年の3月、新しくやってきたあの先生はとてもいい人だった。2週間しかいなかった、元担任の雪村先生。


「しくじっちゃったものは仕方ない。切り替えなきゃ。明日また殺るよ、殺せんせー。場所は直前に連絡する」


険しい顔に汗だくな身体、そして何よりとても苦しそうな表情の茅野っちに、全員目がクギ付けになる。


「必ず殺れる。今の私なら」


茅野っちはそう一言いうと、素早く動いてここから去っていった。

あれが本当の茅野っちなのか、どうなのか。演技をしていたとはいえ、あんなに冷たくて苦しそうな茅野っちは、初めてみた。

そんな時、三村がどこかで見た覚えがあるといって携帯を出して全員に見せた画面には、磨瀬榛名、と書かれていた。
昔とても有名だった天才小役の名前だ。髪をおろしたきつめの目つき。画面に映るのは小さい女の子だけど、たしかにさっきこの場にいたあの茅野っちと似ていた。


「こんだけ長く信頼関係築いてきたから、もう先生をハナから疑ったりしないよ。でも、もう話してもらわなきゃ、殺せんせーの過去」

『人殺し』

茅野っちはあの時、殺せんせーのことをそう呼んだ。
殺せんせーがそんなことをしたとは思えない。たしかにそれは100%信じている事だ。だけど。


「だけど、もう話してもらわないと、殺せんせー」
「新稲の言う通りだ。でなきゃ誰もこの状況に納得できない。そういう段階にきちゃってんだよ」


少し寂しそうな顔をして俯くビッチ先生に、烏間先生。そんな皆の顔をみた殺せんせーは、少し息をついたあと、わかりました、といった。


「先生の、過去の全てを話します。


ですがそのまえに茅野さんはE組の大事な生徒です。話すのは...クラス皆が揃ってからです」

殺せんせーのその言葉に、全員がかたく頷いた。


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