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殺せんせーの、過去を知った。その話を聞いて、誰も先生を疑ったりはしないだろう。全ての理由が繋がったからだ。殺せんせーが何故私たちのクラスにきたのか。何故、先生をしているのか。何故、こんなにも良い先生なのかが。


「先生の教師としての師は誰であろう、雪村先生です。目の前の人をちゃんと見て、対等な人間として尊敬し、一部分の弱さだけで人を判断しない。彼女から...そういう教師の基礎を学びました」


そうして殺せんせーは、この暗殺教室を作り上げた。私たちに最高の成長をプレゼントするために。その目論見通り、私たちは殺せんせーの元で成長の限りを尽くしてきたんだ。

だけど。


「前にも言いましたが、先生と君達を結び付けたのは暗殺者と標的という絆です」


殺せんせーが標的でなければ、私たちは会えなかった。
殺せんせーが標的でなければ、私たちは全力でぶつかることもできなかった。


「もしも仮に殺されるなら、他の誰でもない。君達に殺して欲しいものです」


殺せんせーは静かにそう言うと後ろを振り向いた。

3年生になった当初の頃、私達は驚いた。月を爆発した本人だという目の前のタコのような化け物が、担任になると聞いたからだ。さらに、もしも暗殺できれば賞金がもらえる。そんなことを言われても、いざやろうとすればどうだろう。こんな圧倒的な力の差を見せつけられて殺せるだろうかと、全員が不安に思った。

だけど違う。暗殺教室が始まって9ヶ月。これまでたくさんの事があった。嬉しかった事。楽しかった事。ムカついた事。悲しかった事。全部全部、殺せんせーとの大切な思い出だ。

この瞬間、誰もが思った事だろう。

この人を、殺さないといけないのか...と。










短い冬休みも終わり、新学期が始まる。受験シーズン真っ只中に突入だ。その前に私達には重要な事が待っているっちゃ待っているんだけど。


「...おはよ、サチ」
「うん...おはよ、莉桜」


全員この冬休みで色々考えたんだろう。いつもなら元気ハツラツの莉桜も今日ばかりは少し元気が無いように見えた。それはクラスの皆も同じだろう。
私は自分の席に座って、頬杖をついて考える。本当に殺す必要があるのだろうか、と。

その時だった。渚君が立ち上がり、皆の前に立って話があるから放課後集まって欲しいといったのだ。何の話だろうと全員が不思議に思う。そう、私もその仲間だ。何の話があるのかわからないまま放課後を迎え、私は愛美と一緒に皆が集まっている場所に向かった。


「んだよ渚。テメーが招集かけるなんざ珍しいな」


寺坂君が石の上に座りながらそう聞いた。彼を横目にちらりとみて、前に立っている渚君を見やる。


「...ごめん、でもどうしても提案したくて」
「何?言ってみて」


クラスの母である原ちゃんがそう促せば、俯いたままいた渚くんが意を決して顔をあげて、口を開いた。


「...できるかどうかわかんないけど、殺せんせーの命を...助ける方法を知りたいんだ」
「助けるってつまり、3月に爆発しないで済む方法を?」
「アテはあるの?」
「もちろん今はない。ないけど...あの過去を聞いちゃったら、もう今までと同じ暗殺対象者としては見れない。皆もそうなんじゃないかな」


渚君の意見は、私も同意だ。今改めて感じる、殺すという事。殺せんせーとの思い出も全て、私達は消し去るという事だ。

何度も考えた。本当に殺せんせーを殺す必要はあるのかと。数学者の娘とは名ばかりに、その問いを考えても考えても答えは出なかった。

1を0にするのは簡単だ。だけど、0にする必要性はどこにある?


「わたしさんせーい!」
「渚が言わなきゃ私が言おうと思ってた」


クラスの何人かが渚君の意見に賛同する。その輪をなんとなくぼーっと見ていれば、隣に立っていた莉桜がそっと口を開いた。


「こんな空気の中言うのはなんだけど、私は反対」
「莉桜...」


和やかな雰囲気が一転した。


「暗殺者と標的が私達の絆。そう先生は言った。この1年で築いてきたその絆。私も本当に大切に感じてる。

だからこそ、殺さなくちゃいけないと思う」




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