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渚君とカルマ君が喧嘩しているのを側からみて、少し羨ましいと感じた。二人とも、言ってることは正しい。カルマ君の渚君への暴言は目に余るものがあるけれど。それでも、お互いの意見は尊重できる。譲れないものがあるのは皆一緒だ。お互いに皆わかってる。理解もしてる。だけど、それだけじゃままならない事だってある。


「科学の力は無限です!壊すことができるのなら逆に助けることだって!!」
「それに、当てがゼロってわけじゃない。皆が一丸になればそれも試せる」


愛美と竹林君が、殺さない派の青色のBB弾を手にする。あぁ、やっぱり愛美だなと私はどこか他人事のようにそれを眺めた。


「おれらものづくり組は暗殺自体が卒業制作だと解釈してる。時間切れで死ぬぐらいなら、最高の作品を殺せんせーに見せたいんだ」


岡島、三村、菅谷達は、殺す派だ。うん、その考えも彼等らしい。

皆、一人一人芯があって、意見があって、自分の思う方を取っている。すごい事だ。いざ、そういう立場になると、私はどっちだろう。今まで一度も暗殺をしようとは思わなかった。それは、自信がなかったわけじゃない。たしかに最初の方は自信がなかった。私”なんか”。そう思っていた。

でも今は違う。殺せんせーがいるから。皆がいるから。数学者である自慢の父親がいるから。母親がいたから。今の私がいる。


「行くぞ、新稲」

寺坂君が、赤色のBB弾を片手に私に手を伸ばす。
いつも彼が助けてくれていたな。今思えば、そうだった。私が安全に計算ができたのも、彼が庇ってくれていたから。

私は、寺坂くんの手に自分の手を伸ばして、だけど、途中でそれをやめた。


「新稲さん...」


当然私は寺坂君と行くと思ったのだろう。渚君や、前原君達、莉桜までが目を見開いていた。


「ごめん、計算してもやっぱり正解がわからない。どっちも正解だと思ってしまう」


解が一つだけだとは限らない。そんな事、机上の問題ではあり得ない事だ。

『どんな数字にもできる。その方法を考えるのが、数学者の道ではないのですか?』

進路相談の時に、殺せんせーに言われた言葉が思い出される。

今まで色んな事があった。殺せんせーと修学旅行にいった。夏休みは皆が危ない目にあって、それでも助けるためにプロの暗殺者達と戦った。自分の計算力にくじけそうにもなったけど、ありがとうと沢山言われた。学園祭では、お父さんと仲直りできた。これからも一緒に、お母さんを思い出していこうねと言った。そして、自信が、ついた。

こんな沢山の、過去の自分の出来事が、今の私に繋がってる。

『いつか、過去の答えが貴方を助けてくれる』

そういえば、お母さんはいつも、そう言っていたな。


「だけど、違う。私にとっての正解は、殺せんせーを助ける事」
「な...!!そっちは俺がいねーんだぞ!?誰がお前を庇ってやれるんだよ!」


寺坂君がもう一度私に腕を伸ばした。私はそれを無視して、青色のBB弾と銃を手にして、殺せんせーの目を見た。いつも小さかったけど、目を細めてとても嬉しそうに笑っているその目から、愛情が垂れ流されている。私はそれを見て、少し笑いながら、殺せんせーに話しかける。


「殺せんせーを、色々な数字に変える。それは0にする事だけじゃない。今までの答えが、殺せんせーを色んな道に進める手助けになる。そうだよね?殺せんせー」
「えぇ、新稲さん。それが数学者の、道ですよ」


私はまた一歩、踏み出せる気がした。



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