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「やっぱり、パワーの差は圧倒的だな」
「そう、ナイフを当てれば勝ちですが、カルマ君の喧嘩技はそこまでの流れを有利に運べます。一方で渚君にも注目です。ナイフをもう一本携えている」


ねこだましの準備だ。だけど当然、カルマ君もそれに気づいているんだろう。


「武器も考え方も対極にある殺し屋二人。どう決着に持っていくか、注目ですよ」


殺せんせーの言葉に全員が二人に注目をしている。
力だけなら、圧倒的に渚君が不利だろう。二人は軽やかに動きながら、攻防を繰り広げている。

カルマ君の蹴りをもろに受けた渚君が地面に転がる。その隙を見て、カルマくんが切りつけに行った瞬間、渚くんは彼のナイフを蹴って落とした。

武器を落としたカルマくんに向かって、渚くんがナイフで切りつけにいく。だけどカルマくんは、渚くんの手をなぎ払い、思い切り頭突きをした。その衝撃で武器を落とした渚くん。だけど渚くんにはまだ、猫だまし用のナイフが一本あった。


「抜かせないよ。その隙あったら殴るから」


渚くんがナイフを抜けないように、容赦なく殴りにいくカルマくん。痛そうだ。私は思わず眉を潜めて、二人を見た。


「気絶させてからゆっくりとどめ刺してやるからさぁ!」


カルマくんは、渚くんのみぞおちに膝蹴りをかました。ぐったりしている渚くんはなおも、カルマくんを殴ったり、飛びかかったりしている。


「カルマくん、わざと渚くんの攻撃受けてるね」


原ちゃんの言葉に、私は首を縦に振った。


「渚の攻撃だって効いてるはずだぜ。1年みっちり鍛えられてきたんだから」
「カルマくんは過程を重んずる戦闘暗殺者です。駆け引き、戦略、倒し方。そういう戦いの先にあるのが彼の暗殺です。片や渚くんは純粋暗殺者。ただひたむきに勝利につながる一撃を探し続ける。そんな渚くんの一撃一撃を堂々と受け止める。そうやって勝てば渚くんも敗北を認めざるを得ないでしょう」


二人とも、お互いに認めて欲しいんだ。お互いが納得する勝ち方を、純粋にぶつけ合っている。どっちを応援すればいいのかも忘れて、私はただただ胸元にある服をぎゅっと握りしめた。

ぐらりとした渚くんの頭にめがけて、カルマくんのかかと落としが綺麗に決まった。


「かかと落とし...喧嘩に持ち込まれちゃ勝ち目ねーよ」


ゴッ!と、鈍い音が響いた。痛そうな音に思わず顔を顰めてしまう。

ぐったりとしている渚くんを見下ろすようにナイフを持ったカルマくんは、大きく振りかぶるとナイフを渚くんめがけて突き下ろした。

その瞬間。



パァン!!




渚君の猫だましである手を叩く音が響いた。カルマ君の顔が近づく瞬間を狙って、渚君が綺麗に猫だましを決めたようだ。
カルマ君はタイミング良く舌を噛むことで、猫だましとの波長をずらしたらしい。そのおかげで、猫だましの機能は効いていない。

渚君は立ち上がると、ナイフに全ての殺意を込めて投げた。
カルマ君がそれを薙ぎ払うと同時に渚君はカルマ君に飛びついて、綺麗な肩固めを決めた。


「カルマに...あんな鮮やかに寝技を決めるかよ...!!」
「カルマ君には猫だましの影響が残っていた!」


渚君は、殺気を込めたナイフを捨て駒に、カルマ君が最も得意とする素手での勝負に出たんだ。誰よりも認めて欲しい人に、その人の最も得意とする技で勝ちたいんだろう。

ジタバタしているカルマ君は何度も渚君の背中をバシバシ叩いている。気絶しそうなほどに歪んでいる顔から苦しいことがうかがえる。その時、カルマ君の近くにナイフがあった。彼はそのナイフを手にした。


「カルマのナイフが!」
「不運...!あんな近くに落ちてるなんて...!」


もう渚君の負けだと誰もが思った。そんな近くにカルマ君のナイフが落ちているんだ。カルマ君はナイフを、渚君の頭めがけて振り下ろそうとした。けれど、彼はそのナイフを地面に突き刺し、渚君の背中をぽんぽんと叩いた。


「...ギブ。降参。俺の負けだよ、渚」


カルマ君の言葉に思わず目を見開く。
次に、烏間先生の声が響いた。


「そこまで!赤チームの降伏により、青チーム...殺さない派の勝ち!!!」


青チームの、勝ちだ。


「「「おおっしゃあああ!!!!」」」


よかった、勝った。安心しきった私は思わず、へなりと地面に座ってしまった。カルマ君と渚君は握手をして、仲直りをしている。ほんとうによかった。全力でやって、よかったと心から思った。


「新稲ちゃん」
「あ、カルマ君...」


まだ座り込んでいる私に近づいて、手を伸ばしてくれるカルマ君。その手に自分の手を重ねて立ち上がれば、彼は私の目を見つめて、口を開いた。


「全部新稲ちゃんの手の上で踊らされてたんじゃないかと思うぐらい、完璧な指揮だったよ」
「そんなことないよ。カルマ君の指揮、本気で怖かった」


本心からそう言えば、彼はいつもの彼らしくニヤリと笑って、私を見た。
ふと周りをめぐらせば、赤チームと青チーム同士でお互いを称えあっているのが見える。本気でぶつかったからこそ、仲が深まる事もある。これも殺せんせーの教育のうちなのかと思うと、思わず笑顔が溢れた。

私は、お尻についた葉っぱを手で払って、莉桜に絡まれている渚君を助けるために二人に近づいた。その時、烏間先生が私達の前にたち、口を開いた。


「...やむをえんな。ただし、条件がある。探す期間は今月一杯だ。たとえ君達が暗殺を休止しても、君ら以外にもこいつを殺そうとする勢力は沢山いる。俺もな、殺すのなら他の誰でもない君らに殺してほしいんだ」


烏間先生の言葉に、全員が耳をかたむけた。


「だから約束してくれ。1ヶ月の結果がどうなろうと、二月からさきを全力で暗殺に費やすと。生かすも殺すも...全力でやると」
「「「はい!!!」」」


全員で、大きく返事をする。皆それぞれ思うことはあるだろう。だけど、誰も異論はない。
全力で、殺せんせーを助ける方法を探す。その事に、全員が一致の意見だ。



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