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季節は二月。明日はバレンタインだ。前原君からのクラス全員招集ラインきたけど、私はお断りしてバレンタインのための材料を買いにスーパーに来ている。生まれて初めてチョコケーキを作る(毎年お母さんとチョコを買いに行ってお父さんに渡していた)から、少し緊張だ。


「マスター、材料は今のところ欠点一つありません」
「だね。よし、帰って作ろうか」
「はい、マスター」


律との話し合いも完璧だ。あとは家に帰ってレシピ通りに作ればいいだけ。初めての手作りお菓子だから、あまり期待はしないで欲しいけれどね。
家に到着して、まだお父さんは帰ってきていないことを確認する。お父さんがいると泣き出しそう(誰に作っているんだとかなんだとか問いただしてきそう)だから、早めに作り終えないと。


「まずはチョコを溶かしましょう」
「お湯を沸かして、っと...」


エプロン姿になった律が画面の向こうから一つ一つ支持を出していく。律を落とさないように、台所の少し高めのところに立てかけて、丁寧にその指示を見ていった。味はともかく、なんとか生地を作り終えて、あとはオーブンで焼くだけだ。ゆっくりと生地を型に流し込んで、あらかじめ予熱しておいたオーブンにいれて、スイッチオン。エプロンを外して、焼き終わるのを待とう。


「マスター」
「ん?」


その時、同じようにエプロンを外した律が不意に私の事をよんだ。


「どうかした?」


エプロンをたたんで、ラッピング用の包装紙を取り出して机に広げながら聞く。律は私の事を笑顔で見つめていた。


「マスター、私はマスターに、とても感謝しています」


胸の前で両手を組みながら律はそう言った。
彼女の頬には涙が流れている。


「律...」
「私を、”私”にしてくれたこと。私を、皆さんの様に一生徒にしてくれたこと。私に、感情をくれたこと」


律はゆっくりと目を開き、そして私にまた微笑みかけた。


「ありがとうございます、マスター。貴女は私の、恩人です」


律の目から涙がこぼれ落ちている。私はゆっくりと手を伸ばして、がめんごしに彼女のほっぺに親指を添えた。


「こちらこそ、ありがとう律。律が私にくれたもの、全部全部、宝物だよ」


楽しかったこと。2人で協力したこと。悲しかったこと。ムカついたこと。嬉しかったこと。律がいたからできた安心感。律のおかげで芽生えた自信。勇気。諦めない、心。

機械なんかじゃない。律はもう、私の大親友だ。

涙を拭うことはできないけれど、私も笑顔を見せて、律の名前を呼んだ。涙を手でぬぐった律は、こっちを見上げて、はい、とく言葉を紡ぐ。


「出会ってくれて、ありがとう」


一番伝えたい言葉は、きっとこれだ。




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