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昨日どうやらなにかをやらかしたらしい前原君が、朝からずっとひなたに言い寄ってる。チョコをひなたからもらわないと内申書に有る事無い事書かされるらしい。
岡島が言ってることを聞けば、まぁ確かに前原君の自業自得かなって。本人のひなたに聞きたかったけど、さっき渚君でさえ彼女の逆鱗によって椅子を投げられていたから無理だ。
2時間目や3時間目となんとかチョコをもらおうと前原君は頑張ってるけど、ひなたは怒りっぱなし。
流石に見かねたメグが、もう許したらと殺せんせーに言うと、先生は「優れた殺し屋は万に通ずる。異性の扱いとて例外ではないのです」と言っていた。
なんとなく納得したのちの昼休み。全員が教室から他の教室を眺めていれば、なんとか前原君とひなたは仲直りしたようだ。少し安心してほっと胸を撫で下ろせば、ふと見えた茅野っちの顔が優れなかった。どうしたのかなと思っていれば、すかさずそれを見逃さずに寄っていく2人の影が。
カルマ君と莉桜だ。
「おや、おやおや...?」
「それを誰に渡そうというのかね?」
遠くにいてもわかるその声に、私は苦笑いを浮かべる。
「ほどほどにしなよ、2人とも」
「サチ...!!」
近寄って声をかければ、泣きながら私の名前を呼ぶ茅野っちと、にやにやと笑いながら悪魔の角を生やしている2人。2人は。分かってるわかってるといいながら茅野っちをどこかに連れて行った。それを手を振りながら見送ってあげる。あの2人にバレたら、逃げ出すことなんてできないだろうに。
帰り道。いつものように寺坂君と帰る前にやることがある。私は寺坂君の手を引っ張って、誰もいない校舎裏に来ていた。帰りながらだと絶対に誰かに見られるだろうから。見られたら最悪だ。明日からずっとからかわれそう。
「なんだ?」
「わかってるくせに」
ちょっと茶化せば、寺坂君はふっと笑いながら、こっちを見た。
「はい、これ」
カバンの中から取り出す。ハート形なんて可愛いものではないけれど。
「ハッピーバレンタイン、だよ。寺坂君」
メッセージもとくに添えてるわけじゃない。だけど、言いたいことは伝わるだろう。いつもそばにいてくれてありがとう。これからも、ずっとそばにいてね、って。
「ん、さんきゅ」
包装をあけた寺坂君は中にあるものを取り出して、じっくりと眺めた。
「ケーキか?」
「ガトーショコラだよ。甘さは控えめにしておいたからね」
ゆっくりと目の前で一口を食べた寺坂君は、何度か口を動かして咀嚼した後、口を開いた。
「うまい」
「そう?」
「手作りか?」
「うん、初挑戦してみたよ」
「うまいな」
「また作って欲しい?」
「あぁ。もっと食べたい」
彼と付き合う様になってから、寺坂君は結構素直に感情を表す様になったなと思う。まぁそれなりに今までも出してはいたけどね。例えば怒りとかイラつきとか負の感情を出すことは多かったけど、最近は嬉しそうな顔や感情をおもてに出してくれる様になった。
「じゃあ、また作ってあげるね」
そうやって一言いえば、寺坂君は、誰にも見せない様な笑顔で私の頭をゆっくりと撫でてくれたのだ。
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