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空にはレーザーの光が今にもこぼれ落ちそうに輝いている。


「なるほどねぇ、レーザー発射は日付が変わる直前ですか...」


上を見上げてそう言う殺せんせーに、ひなのが声をあげる。なんとかして逃げよう、人質にでもなんでもなるから、と。


「どんな貴人を人質に取ろうが、ここまできたらもう発射はやめないでしょう。地球の命がかかってますから」
「殺せんせーは、わかってたの?こうなる事が」


速水さんの言葉に全員が下を向いた。刻一刻と近づいているレーザー発射の時間、どうしたらいいのだろう。


「仮に先生が爆発せずとも、これだけ強大な力を持ち奔放に活動する怪物を、世界各国が恐れないはずはありません。どのみち息の根をとめてしまいたい...と思うのが妥当でしょうねぇ」


殺せんせーはどこか落ち着いた風にそう言った。落ち着いているのは先生だからだろうか、私たちはまだ子供だからか、どうしてもそうやって受け入れることはできなかった。


「もっと早くきていれば...捕まったりしなければ、他に打つ手があったかもしれないのに!」


不破さんの言葉に殺せんせーが続ける。そんなことをすれば、私達はもっと厳重な監視下におかれてただろう。
防備も完璧だ。きっと、途中で捕まっていてもおかしくはない。


「世界中の英知と努力の結晶の暗殺が...先生の能力を上回ったこと敬意を感じ、その標的であった事に栄誉すら感じます」


殺せんせーは落ち着いている。笑顔すらを浮かべていた。


「でもじゃあ、私達が頑張ってきたことは...無駄だったの?」
「無駄なことなどあるものですか、矢田さん」


矢田っちの言葉に、殺せんせーは触手をぽんと彼女の頭の上においた。

私達は、殺せんせーの爆発が1%以下であると宇宙に行ってまで突き止めた。
殺せんせーはそう言って、さらに続けた。


「おかげで暗く沈んでいたE組に明るさが戻り、そこからの1月は...短かかったけど本当に楽しかった。その過程が、心が大事なのです。

習った過程の全てを尽くして君達は会いに来てくれた。先生としてこれ以上の幸福はありません」


殺せんせーの言葉が、胸に深く深く刻まれる。どうしてそんなに穏やかでいられるの、殺せんせー。下唇を噛み締めながら殺せんせーを見ていれば、寺坂君が大きく声をあげた。


「たった1%だぞ!そん程度のリスク、俺らは余裕で飲めるっつーんだ!なんで政府も世間も、一番近くで過ごした俺らの意見を聞こうとしねーんだ!このタコ、エロいくらいでなんの危険もねぇのによ!」
「ガキの言葉に耳は貸さない。そのかわり哀れんであげる、侮辱に等しいわ」
「納得できるかこんなもん」
「今度会ったらあいつらぜってー...」


寺坂組の4人の頬に、殺せんせーの触手がぴとっとついた。
寺坂君だけは頭をぐりっと横にされていたけど。

殺せんせーは、寺坂君、そして皆さんと声をかけたあと、続けた。


「君達はこの先の人生で、強大な社会の流れに邪魔されて、望んだ結果が出せないことが必ずあります。その時、社会に対して原因を求めてはいけません。社会を否定してはいけません。それは率直にいって時間の無駄です。

そう言う時は、世の中そういうもんだ...と、悔しい気持ちをなんとかやり過ごしてください」


殺せんせーはそう言ったあと、少し間をおいて、私の目に目を合わせた。
悔しいと思ったことが何度もあった。否定されたこともあった。悪気のない言葉に、傷ついたこともあった。それでも3Eで、私はそれを乗り越えた。仕方ない、と。それでも私は、数学が好きだから、と、


「やり過ごした後で考えるんです。社会の激流が自分を翻弄するならば、その中で自分はどうやって泳いでいくべきかを。やり方は学んだはずです。このE組で、この暗殺教室で。いつも正面から立ち向かわなくていい。避難しても隠れてもいい。反則でなければ奇襲してもいい。常識はずれの武器を使ってもいい。

やる気を持って焦らず腐らず試行錯誤を繰り返せば、いつか必ず素晴らしい結果がついてきます。


君達全員、それができる一流の暗殺者なのだから」


殺せんせーの授業に、全員の頬が少しあがった。どんな時でも殺せんせーは授業をしてくれる。私達に教えるべきものを教えてくれる。


「でもね、君達が本気で先生を救おうとしてくれたこと、ずっと涙をこらえていたほど嬉しかった。本当ですよ」


全員の頭に殺せんせーの触手がぴとりとついた。思わず出そうになる涙を堪えて、私は離れた触手の痕跡に触れるように、頭の上に手を伸ばした。

その時、殺せんせーが莉桜の名前をよんだ。そうだった、忘れてた。ぽけっとの中に入れていたろうそくとライターを取り出す。


「ところで中村さん、山中の激戦でも君の足音はおとなしかったですねぇ、しかも甘い匂いがするようですが?」
「月が爆発した日から今日でちょうど1年でしょ、確か雪村先生は今日を殺せんせーの誕生日にしたんだよね」


そう言って、莉桜は腰にいれていたケーキを取り出す。小さくてもブランドもののケーキ、綺麗なままの姿に莉桜の体術の優秀さが垣間見える。


「サチ、ろうそくと火ちょーだい」
「ん、どーぞ」
「皆とっとと歌うよ、サンハイ!」


莉桜の合図で、皆で歌を歌う。
誰が歌うかみたいな態度の寺坂君のとなりにたって、笑顔で見上げれば、結局彼も渋々歌を歌ってくれた。

ハーッピバースデーディーア 殺せんせー
ハーッピバースデートューユー

「ほら吹き消せ殺せんせー!一本しかねーんだから大事にな!」

岡島の言葉に殺せんせーがろうそくの火を消そうとしたとき。



空から、なにかが落ちてきた。

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