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あのあと、泣きながら殺せんせーの面影を探すために教室に戻れば、それぞれの机の上に卒業証書と卒業アルバム。それと、生徒一人一人に合わせたアドバイスブックが置かれていた。
冒頭は読みやすい漫画で書かれて、そこからは本格的な助言が書かれていた。
巻末には大学レベルの数学問題に、殺せんせーの触手を利用した『触手エネルギーを人工的に応用する際の理論エネルギー』についても載せられていた。
とにかく細かく細かく書かれているそれに、気づけばうんざりしていて、そして気づけば全員が寝ていた。
目を覚ましたのは朝。机の上にもたれかかりながら寝ていたからか、身体中が痛い。腕を回して上半身を伸ばして、椅子をがたりと鳴らして立ち上がった。既に数人が起きていて、おはようと声をかける。
「おはよう、新稲さん」
窓際に立っていた渚君が、静かに返事をしてくれた。彼の顔には涙の跡と、笑顔が浮かんでいる。隣に立って、おはようと返事をして窓の向こうを見た。
校庭には、早咲きの桜が咲いていた。
全員が起きて、クラスが少しざわめき始めた時には、烏間先生とビッチ先生も教室の中に入ってきて。
烏間先生が頭を下げて「君らには納得できないこともあるかもしれない」と言った。それでも、殺せんせーが大好きだから、烏間先生を困らせたくないから、もちろん秘密にすると全員で約束をした。
「今日の椚ヶ丘中学校の卒業式には参加させてください」
メグの言葉に、烏間先生が手配しようといってくれた。その言葉に全員が笑顔を浮かべる。
磯貝君が周りに視線を合わせて、そして「全員起立」と言った。
ガタガタなる椅子。机の中にそれをしまって、全員で一斉に頭を下げた。
「烏間先生、ビッチ先生、本当に色々教えていただき、ありがとうございました!」
この一年、沢山のことを教えてくれた恩師の2人に、私達から精一杯のお礼を伝えた。
あとは卒業式に出るだけ。そう言えば卒業式ってどこでやるんだろう?そんな疑問を口にすれば、カルマ君が隣で「市民会館らしいよ」と答えてくれた。
笑いながらそう答えてくれた彼に、そうなんだ、と一言告げる。もちろん私も笑顔を浮かべて。
悲しみは確かに残っているけれど、それでも皆、笑っていた。
「お母さんに制服取って来てもらおうと思います。サチちゃんはどうしますか?」
「私は制服取りに行こうかな」
「一緒に行くか?」
愛美は親に持ってきてもらうらしい。父さんに持ってきてもらうのも忍びないためそういえば、寺坂君が隣に来た。彼の顔を見上げて、首をかしげる。
「うん、寺坂君も取りに帰る?」
「あぁ、まだ時間あるし」
「じゃあ一緒に行こ」
彼の腕を握って、いそいそと教室を出る。
それに目ざとく反応したクラスの皆からの「早く来いよー」という言葉に、後ろ手に手を挙げた寺坂君にならって、私は振り向き笑顔を見せた。
まだ太陽は上がりかけ。時間も7時にも満たない。急いで取りに帰っても卒業式には全然間に合う時間だ。
木の上に咲いている桜の蕾を眺めながら、少しゆっくりめに足を進める。寺坂君は何も言わなかった。私も、何も言わなかった。
それでも手は、強く握りしめあっていた。
「サチ、写真撮ろ」
「お、いいね」
卒業式が終わった後、莉桜がスマホを片手に私の肩に腕を伸ばした。この一年、彼女とも沢山過ごした。たくさん笑った。
2人で自撮りをしていれば、原ちゃんや愛美もやって来て。
4人で撮るなんて初めてなんじゃない?なんて言ってみれば、3人ともびっくりした顔をしながら、笑顔を浮かべた。
「そういや、確かに」
「なんだかんだで撮るタイミングなかったものねー」
「改めると変な感じしますね」
少し気恥ずかしい。それでも、思い出に残すために私達は一列に並んで、莉桜が精一杯伸ばしてくれた腕の中に収まるようにぎゅっと近寄った。
「 寺坂とは離れ離れになるわけだけどどーなの?」
ニヤニヤしながらそう聞いて来た莉桜の言葉をどこから聞いたのかやってきたのはカルマ君。彼もまたニヤケながら、聞いて来た。
「新稲ちゃん達は高校でも付き合うんだ?」
「それ結構失礼な言葉だからね、カルマ君」
呆れたようにそう答えれば、遠くでこっちを見ていたらしい寺坂君がやって来て、私の手を握った。
「新稲、親来てるぞ」
「ありがとう寺坂君」
人目だろうと手を普通に握ってくる寺坂君に、カルマ君は一瞬目を見開いた後、なんとも形容しがたい微笑みを浮かべた。
「なるほどね、寺坂も男になったわけだ」
その一言に、莉桜も頷きながら、またねと一言いって来た。
その言葉に同じようにまたねと返して、私は寺坂君に引っ張られる形でその場を後にした。
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