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卒業後はいろんな事があった。賞金の100億円はすぐにクラスに支払われたけど、メグがまとめたことによって、将来の学費と一人暮らしの頭金、それ以外は寄付、そして最後にこの山を買って、あとは全て国に返すことにした。

お父さんには、この一年何があったのかをゆっくりと一つ一つ説明をした。急に手に入った大金を、どうやって管理するか。それをわかってもらうためには、殺せんせーという恩師について話さないといけないことだったから。

あとはもちろん、寺坂君についても話した。私の彼氏です、って。寺坂君なんてガラにもなく緊張しながら挨拶してたし、その様子はもれなく全員に知れ渡ってしまったけれど。









「サチ、寺坂君が迎えにきたよ」
「はーい」


そして、新しい春。私は今までとは違う制服を身につけて、玄関に降りた。父さんもスーツを纏ってこっちを見ている。


「それじゃあまた後でね」
「あぁ、お母さんも連れて行くから。代表、頑張るんだぞ」


頭を撫でてもらいながら、にこりと笑みを浮かべる。玄関の扉を開ければ、そこには私とも違う制服を着ている寺坂君が、カバンを肩にかけて待っていた。

よう、と手を少しあげた後、私の後ろにいた父さんに向けて小さく頭を下げる。不器用なりにも丁寧で優しい寺坂君に、父さんも小さく笑みを浮かべた。


「行ってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」


今日は、入学式だった。


「代表挨拶は決まったか」
「なんとかね。殺せんせーが、アドバイスブックに書いてくれてたみたい」
「抜かりねぇな」
「本当にね」


アドバイスブックにまずかかれていたのは、入学式代表挨拶の例文集。こんな言葉で始めてはどうだろう、理系の学校だからこんな事で締めくくってはどうだろう。
なんなら殺せんせーの考えてくれた挨拶が何十個も書かれてて、思わず笑ったっけ。


「入学式終わったらまた迎えくるわ」
「うん!寺坂君も、入学式ファイト」
「なんもねーけどな」


小さくふっと笑った彼の手が、私の手から離れる。それじゃぁまた。そう言った後、寺坂君は私の高校から少し向こうにある彼の高校へと足を向けた。

数理特進高校入学式、と書かれた看板の横に立ち空を見上げる。雲一つない快晴の空。私は一歩、足を進めた。












「太陽の光が満ち溢れ、命が生き生きと活動を始める春、私達130名は、この新設校である数理特進高校に入学しました。咲き誇る桜の花びら、雲一つない快晴の空が、私達を迎え入れてくれるかのように、キラキラと輝いています」


壇上に立ち、広げた紙をたまに見ながら、私は前を向いてマイクに言葉を吹き込んだ。
新設校なだけに、生徒数は私達だけ。明らかに大きい体育館には不釣り合いな少人数での入学式は、少し歪だ。

窓から少し突き刺さる太陽の光に、私の髪の毛が反射する。暖かくなった頭を気にしながら、私はさらに続けた。



お母さんの写真を持ちながら、こっちを泣きながら見てるお父さんの顔が見えた。思わず笑いそうになる。

もしもこの場に殺せんせーがいたなら、どうなっていたのだろう。それこそお父さんと同じく泣きながら、私を見てくれたんだろうか。


胸を張って一位を取って来なさい。


そう言ってくれた殺せんせーは、いつから私を信じてくれていたんだろう。今思えば、当たり前のようにそう言っていたな。


自信がなかったあの頃とは違う。私は胸を張って、今の自分が好きだ。
いずれはお父さんのように、殺せんせーのように、人のためになる計算で、人を救っていける数学者になりたい。本当に心からそう思ってる。


「1日1日を悔いのないように。数理化に強くなるだけでなく、第二のヤイバも磨けるように。そして、全力でヤル気を持つことを忘れない3年間にしていきたいと思っています」


中学三年の一年で沢山学んだ。ヤル気を持つ事。結果なんてものは後についてくる。まずは、全力でヤル気を持って臨む事。

私はそうやって、生きていこう。



「新入生代表、新稲サチ」



割れんばかりの拍手が響いた。
頭をゆっくりと下げお礼をする。

その後に、前を向いた。どう?自信に溢れる良いスピーチだったでしょう。なんて、心の中で誰にでもなく言ってみれば。





なんだろう。どこからともなく、ヌルフフフ、と、聞こえた気がした。



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