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あぁ、無性にイライラする。


寺坂は今、誰が見てもわかるほどにむしゃくしゃしていた。

突然やってきたあのタコの言いなりになっているE組にも、いつもの連れてるメンバー二人にも。




吉田の野郎があのタコと一緒にバイクを木で作っていた。
それを喜びながら興奮している吉田を見て、なぜか全てにイラついた。
衝動のままそのバイクを足で蹴り倒せば、クラス全員からブーイングを受けて、憂さ晴らしだとでも言うように殺虫剤を思い切り投げてぶちまける。


「何がそんなに嫌なのかねぇ...」


壁に寄りかかっているカルマがそう言った。

気に入らないなら殺せばいい。それが許されている教室なのだから。


確かにその通りだと思うところもあるが、それでもイライラするのはなぜだろう。


「...寺坂くんは、自分の変化についていけてないんだよ」
「...あ?」



カルマの野郎に突っかかろうとした時、新稲が俺の前に立ちふさがった。

前まではちょくちょく話したりしていたこいつも、最近の俺のイラつきに呆れているのか話しかけてくることは少なくなっていた。
それもあるのかもしれない。話しかけに来ない新稲にも俺はイラついているのだろうか。


「本当は寺坂くんだって、変わりたいって思ってるくせに。自分が変わることが嫌なんでしょ」


新稲は俺の目をしっかりと見てそう言った。

俺は、新稲のそういうところが前からあまり好きではなかった。

数学者の娘だがなんだか知らないが、なんでも自分の考えを理論通りにまとめて断言するその姿は、俺の大嫌いな数学そのものだし、何よりもそうやって言われることに俺は寛大な心を持っているわけではなかった。


「お前のそういうところが、前から好きじゃなかったんだよ」
「...あっそ」



俺の方が頭一つ分は大きい。
下にいる新稲の顔を少しでもでかく見えるように上から見下ろしてそういえば、新稲は俺の目をにらみながらそっけなく一言言う。


「...チッ」


舌打ちを一つこぼして、俺は教室の扉を思い切り強く閉じて廊下に出て行った。


あぁ、イライラする。
むしゃくしゃする。

全てが気にくわない。

全てがどうでもいい。


地球の危機だろうが、暗殺のための自分磨きだとか、落ちこぼれからの脱出だとか。
どうでもいい。俺はただ、その日その日を楽して過ごしていきたいだけだ。


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