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「...いいの、新稲ちゃん?」
カルマくんが新稲さんに話しかける。
足をドタドタと鳴らして歩いていく寺坂くんの音を聞きながら、僕たちも新稲さんの顔をうかがった。
「...何が?」
なんでもないかのように笑顔を見せる新稲さんに、茅野が僕だけに聞こえるようにそっとささやいた。
「ねぇ、渚...サチ、我慢してるようにしか見えないよね...」
「...うん、そうだね」
新稲さんと寺坂くんのあの喧嘩まがいなものは、はっきり言って僕たちクラスメイトからしたら驚くべことだ。「確かに寺坂どうにかしてくれとは言ったけど」そう言っているのは杉野くん。
新稲さんだったら、寺坂くんのあの態度もどうにかなるだろうと思って皆、寺坂くんをどうにかしてくれないかと言っていた。
だけど、まさかこんな冷たい喧嘩のようなことになるとは思っていなかった。
新稲さん自身も困っているのか、どうしたらいいのかわかっていないのか、心配そうに名前を呼ぶ奥田さんに、大丈夫だよと一言そう言っていた。
「サチ〜あんたのせいじゃないって」
「いや、うん、わかってるけどさ」
「ちゃんとご飯食べないとダメだよ?サチ」
「うん...」
「サチちゃん、これ食べますか?」
「ありがと、愛美」
次の日。
朝からいない寺坂くんに気をつかっているのか終始そわそわしっぱなしだった新稲さん。
お昼も食べられないのか、なかなかお弁当に箸を持っていけない様子で。
もともと彼女は争いごととかをあまり好まない性格の人だから、昨日自分が寺坂くんと喧嘩まがいのことをしてしまったことを後悔しているんだろう。
中村さんや原さんたちがどうにか新稲さんを慰めている。
それを遠くからぼんやりと見ていると、寺坂くんが遅れて学校にやってきた。
新稲さんも、寺坂くんの姿を見て少しはホッとしたようで、弁当にやっと口をつけたようだ。
そして寺坂くんが暗殺を手伝えと声高々にしてクラスのみんなに伝える。
「...寺坂、お前ずっと皆の暗殺には協力してこなかったよな。それをいきなりお前の都合で命令されて...皆が皆、はいやりますって言うと思うか?」
前原くんが全員の気持ちを代弁してそう言った。
それでも寺坂くんは何かに自信を持っているのか、来ないなら賞金は俺が独り占めだと一言言うと、また教室を出て行った。
「...なんなんだよあいつ...」
「もう正直ついていけねーわ」
「私いかなーい」
「同じく」
「俺も今回はパスかな」
皆、寺坂くんに対して思っていることは一緒なのか。
新稲さんもそれを見ると、箸を弁当においてガタリと椅子を鳴らしてたった。
その瞬間シーンとなるクラスに、全員の注目を浴びる新稲さん。
慌てて新稲さんが笑いながら、暑いのか手をうちわにして顔を扇ぐ。
「私は気になっちゃうから、行こうかなー...なんて...」
「サチ、もうそこまでして寺坂のお守りしなくて良くない?」
「そうだよ〜サチ〜」
片岡さんや岡野さんもそう言っている。
その言葉にピクリと肩を動かした新稲さんはまた乾いた笑い声をあげると、手で頭をかきながら言った。
「お守りなんて思ってないからさ、私は。とりあえず水着に着替えて行ってみるよ」
「...サチちゃんが行くなら私も行きます」
隣で奥田さんが新稲さんの顔を見上げてそう言った。
その新稲さんの言葉に、皆各々顔を見合わせたりため息をついたりして、そしてわかったよ、と誰かの一言で全員椅子から立ち上がった。
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