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とんでもない能力をもった中学生がいたものだ、と思った。
この化け物の指示通りに素早く動き、死闘を繰り広げたにもかかわらず、ずいぶんと中学生らしく笑う子たちを見て、俺は呆然とした。
きちんと狙撃を成功させた二人ももちろんのこと、これだけの指示を的確に行った 新稲さんも。
「どんな人間にも、殻をやぶって大きく成長できるチャンスが何度かあります。しかし一人ではそのチャンスを活かしきれない」
漠然としか理解されていなかった新稲さんの空間処理能力。
それを、クラスのみんなの前で、そして強敵を倒すために使うことで、ひとつの自信へとつなげる。
その自信は、新稲さんの場合は誰かの為に役に立つようなものへと変わったのだろう。
少し恥ずかしそうに、それでも嬉しそうに目を細めて笑う彼女の姿は、数学者の娘だという言葉で思いつくような堅物なイメージは一切感じられず。どこにでもいる、普通の、女の子だった。
扉の前にいる見張りの男の襟を引っ張り首を絞めて気絶させる。
先の戦いで、皆が動いて時間を割いてくれたおかげか、あらかた動けるようになってきた。元の力の半分程度だが。
「律、もう少し違う方面でよろしく。私はこのタグから飛んでいく」
「わかりました、マスター。では同時に侵入しましょう」
「了解」
新稲さんと、律が二人(一人と機械)で監視カメラの切り替えを行ってくれている。
最上階に近づけば近づけるほど、設備に自分たちも入っていけるという新稲さんの言葉通り、彼女たちは彼女たちなりの仕事をしてくれていた。
「さっすが数学者の娘...何してんのか全くわかんねー...」
「頭が本当に理系寄りなんだね、サチは...」
木村くんと不破さんが呆然としながら言う言葉は、10は離れているだろう俺でさえ同意してしまうものだった。
「よし、成功したよ、律、全員に送って」
「はい、マスター。みなさん、最上階部屋のパソコンカメラに侵入しました。上の様子が観察できます」
律に言われた通り携帯の画面に映し出される映像を見ると、パソコンの前に座り、タバコを煙らせて倒れたクラスの皆を眺めている図体の大きい男がいた。
担任の話によれば、黒幕の男は殺し屋ではない、とのこと。
その話には一理ある。
殺し屋は基本見張りや防衛などに就くものではないからだ。
それに、ここまで来る間に見た見張り役にはなぜだか見覚えのある顔があった。
さらに、一気に連絡のつかなくなった人間たちは、殺し屋に、もう一人自分の同僚もいることを思い出す。
もしかしたら....
「烏間先生?」
「...いや、さぁ、時間がない。こいつは我々をエレベーターでくると思ってるはずだが、交渉期限まで動きがなければ...さすがに警戒を強めるだろう。個々に役割を指示していく」
全員に、訓練の時に色々な技術を教えておいてよかったと改めて思った。
吸収力の高いこの時期に教えるからこそ、精鋭部隊となるのだから。
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