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棒倒しはE組の勝利で終わった。
磯貝くんの的確な指示、一人一人の個性を生かした戦術、そして個人の運動能力も相まって、むしろ勉強になる戦い方だった。
全部終わった時に、磯貝くんにお礼を言われたのはびっくりしたけれど。


『新稲の戦い方を見て、ピンときたんだ。ありがとう』


と、そう言われた。

磯貝くんはすごいな。全員の個性を生かしてなおかつそれで勝利を収めるんだから。


私とは、違う。





「またお前公園にいんのかよ」


夜に一人でブランコに乗っていたら、声をかけられた。声の主はいつもながら寺坂くん。


「寺坂くん...」
「磯貝が、新稲の作戦がヒントになったって喜んでたぞ」
「あはは、うん。なんかお礼言われちゃったよ」


その言葉に笑いながらこくこくと首を振れば、寺坂くんが眉をひそめながら私の座って居るブランコに近づいてきた。そして後ろに回って、ブランコを押してくれる。


「...お前、帰んなくてもいいのか?親は?」
「いるよ?」
「心配してんじゃねーの?」
「どうだろう」


そこまで言うと、寺坂くんが言葉をつぐむ。
それでも手はずっと私の背中を押していて、徐々に近づく夜空を見上げた。


「共働きか?」
「ううん」
「じゃあ...」
「私ね」


あまり、というか。そんなに言うことでもないから他言していないだけなんだけれど。


「私、父子家庭だからさ」


そう一言言うと、寺坂くんがブランコの鎖をつかんで無理矢理止める。
ガタリと揺れるブランコに、前につんのめりそうになったけれど、すんでのところで寺坂くんが私の腰に腕を回して抑えてくれた。



「..悪い」
「ううん、大丈夫」


こうやって、謝られたくないからずっと黙っていた。
寺坂くんが、ブランコの鎖を握っていた手を頭に乗せて、優しくポンポンと叩いてくれた。
なんだかそれが、本当に自分のお母さんみたいで。慰めてくれているんだと思って。


思わず、涙がこぼれる。


「母さん、去年の夏に交通事故で死んだの。そのせいか、ちょっと勉強とかする余裕なくて、それでE組に落ちたんだ」


母さんが死んだことを理由になんてしたくなかったけれど。
それでもE組に落ちた主な理由は、母親の死、だったから。


「...それとさっきの、何が関係してんだ?」


寺坂くんは未だに私の腰に腕を回して頭を撫でてくれていた。


『...お前、帰んなくてもいいのか?親は?』
『いるよ?』
『心配してんじゃねーの?』
『どうだろう』

さっきのこの会話のことを言っているのだろう。

なんて言えばいいのか。どう言えばいいのか。
私は一つ一つ確認しながら、言葉を紡ぐ。


「母さんが死んでから...父さん、ちょっと、なんていうか...変...に、なっちゃって」
「...変?」
「変っていうか...」


なんて言えばいいのだろうか。的確な言葉が見つからない。
そんな私を落ち着かせるように、寺坂くんは頭を撫でてくれていた手を腰に回して、後ろからぎゅっと優しく抱きしめてくれた。
私は、鎖を握っていたに力を込める。


「父さん、私のこと、全然見てくれない」


ずっと、死んでしまった母さんを見ている。追い続けている。
もう母さんはいないのに、ずっと、ずっと、母さんを求めている。


「私だって...!!母さんがいなくて寂しいのに!!」


母さんがいなくて寂しいのに、そんな時に父さんもいなくなったらさらに寂しくなるのに!!
父さんはわかってくれない。それを、どうしてもわかってくれない。

私は誰にも言ったことのない自分の本心を、寺坂くんに向けて言った。
彼は何も言わずにただただずっと、私のことを後ろから抱きしめてくれて。


ただ、泣いた。

母さんが死んでから、一度も人前で泣いたことはなかったのに。私の目からはとめどなく涙が溢れていて。

本当は、心がずっと叫んでいたんだ。



寂しい。とても、寂しい。



って。

寺坂くんは何も言わなかった。ただ私をずっと抱きしめてくれた。
父さんの代わりに、母さんの代わりに。

背中から伝わる体温は暖かくて、腰に回っている手は、少し、冷たかった。




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