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隠れてバイトをしていたことがバレて、E組の皆に迷惑をかけてしまった。
A組と棒倒しで決闘のような形になってしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。

そんなとき、殺せんせーがヌルフフフと笑いながら俺に声をかけてきた。


「暗殺で伸ばした基礎体力、バランス力、動体視力や距離感覚は非日常的な競技でこそ発揮される。棒倒しでどう生かすか、それは君次第ですよ」


そういう殺せんせーの言葉に、俺は棒倒しよう作戦が書かれたノートに目をやる。
俺には浅野のように語学力はない。そんな俺に、指揮が務まるのか...。


『な、なんとE組、どこからやってきたのでしょうか!?』


突然沸き起こる歓声にE組の皆の応援のかけ声。
ふと顔を上げると、今やっているのはどうやら騎馬戦のようだった。

俺たちE組は他のクラスと違って一つの騎馬しか出すことが許されない。
しかも女子の騎馬戦しか出ることができない。本当にE組というだけでこんなにも縛られることになるとは。

そんなことより、今歓声が沸いている中心を見ると、それは俺たちのクラスの代表である騎馬、新稲チームがいた。騎手である新稲の手にはすでに何本もの鉢巻が握られている。


『気付いてたらすでに鉢巻を取られていたA B C D組!!残り一つずつの騎馬となります!!』


敵の騎馬の後ろへ気づかれないように近づき、そしてすぐさま鉢巻を取る。
取られた側はいつ鉢巻がなくなったのかも気づかない。どうやったんだと隣にいた渚に聞けば、渚も若干興奮しながらこう答えた。


「普通に、ただ普通に横切っていったんだよ。殺気も戦う素振りも見せないで、ただ横を通って行って、そして気づかれないようにとって行ったんだ」


横切っていった...?


もう一度新稲たちを見る。
先ほど何本か鉢巻をとった新稲は原たちに何か指示を出していた。
そして素早くその場を去り、追いかけてくる他のクラスからあざ笑うように逃げていく。
他のクラスも新稲たちを追いかけて、全部の敵が新稲たちを狙いに定めた。

だけどやっぱりここは暗殺を教えてもらってるE組だからか、他の騎馬たちよりも軽やかに逃げ惑うE組の騎馬。他のクラスはなれない陣形で走るということに焦っていて、形がずれてきていた。そして、陣形が少し乱れたその瞬間を狙って、新稲達は逃げるのをやめて逆に他のクラスの方めがけて走り出す。

そしてすれ違う瞬間に鉢巻をどんどんとっていき。気づけば、残っている騎馬は新稲たちだけとなっていた。



「うおおおおお!!すげー!!」
「サチスゴイーーー!!」
「原さんすげーよ!!」
「中村と片岡もよくあの体勢で走れたな!?」
「奥田さんもずっとよく走ったよ!!」


嬉々としてこちらの観客席に戻ってきた五人に全員が声をかける。
俺は思わずすごいと声をあげれば、殺せんせーがヌルフフフと笑いながら俺の鉢巻を額に回して結んできた。


「一人一人の個性を武器にして、仲間を率いて戦う力、その点で君は浅野くんをも上回れます」


そうだ、新稲は敵じゃない。新稲の戦う力を自分のものに少しでもできれば。
俺はペンを握る力をもっと込めて、そして殺せんせーを見上げた。


「誰かがピンチに陥った時も...皆が共有して戦ってくれる。それが君の人徳です。先生もね、浅野くんよりも君の担任になれたことが嬉しいですよ」


そう嬉しそうに言ってくれる殺せんせー。
これ以上に嬉しい言葉なんてあるだろうか。俺は目開いて、緩む頬に静かに心を鼓舞する。


「よっし皆!!いつも通りヤル気でいくぞ!!」
「「「「「「おう!!!!」」」」」」」



棒を立てながら、男子全員にそう声をかければ、元気な掛け声が聞こえる。
そうか、これが、人徳というやつなのか。





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