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全員が手錠をかけられ、首輪をつけられていく。
私は居心地の悪い手錠に顔をしかめて、愛美とともに壁に沿って座った。
戦闘が得意なA班を一瞬にして叩きのめし、さらにビッチ先生の裏切り行為、そして多分野に長けるその技術。桁違いだ。全員がそう思っているだろう。
「...さて次は烏間先生だ。誘い出して人質にとる」
死神は笑顔を見せながらそういった。
烏間先生を人質に。こいつならやりかねない、そう思った。
だけど、牢屋の前にあるモニターをふと見ると、そこには見知った人影が二つあり、同時に安心感がやってきた。
それを同じく見ていたのだろうカルマくんが、死神に向かっていつもの調子に乗った声で煽った。
「死神さーん。モニター見てみ。あんたまた計算違いしたみたいだよ」
そのモニターには、烏間先生と、殺せんせーがいた。
「...参ったな。かなり予定が狂ってしまった。仕方ない、計画16だイリーナ。まずはエレベーターで所定の位置まで来てもらおう」
「,,,ええ、私の出番ね」
何よりもまずいのは、二人はビッチ先生の裏切りを知らないこと。
どうしようと焦っている暇も与えずに、殺せんせーが穴の空いた天井から牢屋の中へと落ちてきた。
「気に入ってくれたかい、殺せんせー?君が最後を迎える場所だ」
「みなさん...ここは?」
殺せんせーが私たちを見渡してそう聞く。
「洪水対策で国が作った地下水路さ。密かに僕のアジトとつなげておいた。地上にある操作室から指示を出せば、近くの川から毎秒200tの水がこの水路いっぱいに流れ込む。対先生物質の頑丈な檻に押し付けられ、ところてん状にバラバラになるって寸法さ」
死神のその言葉に、私の推理は当たっていたことを悟った。
予想通り、私たち諸々含めて溺死させるつもりなんだろう。
「待て...生徒ごと殺す気か!?」
「当然さ、今更待てない。生徒と一緒に詰め込んだのも計画のうちだ。乱暴に脱出しようとすればひ弱な子供が巻き添えになる」
その言葉の後に殺せんせーはヌルフフフといつものように笑みを浮かべ、ドクンドクンと体を震わせる。
私の肉体はついにこれを克服したとか言いながら、四つん這いになり見せたその体内器官は、ベロだった。
「いや確かに殺せんせーのベロ初めて見たけど!!」
「消化液でコーティングして作ったベロです。こんな檻など半日もあればとかせます」
「おせーよ!!」
ぺろぺろと檻を舐める殺せんせーが面白くて思わずクスリと笑ってしまった。
薄ら笑みを浮かべながらそれを見ていた死神は、操作室を占拠して水を流すためにと地上へ帰ろうと踵を返していた。その死神の肩に手を置き、烏間先生は死神を引き止める。
「...なんだいこの手は?」
死神のあおるような言葉に笑顔、それを見て一度目をつむり息を吐いた烏間先生は渾身の一撃を死神の顔に浴びせた。
「日本政府の見解を伝える。27人の命は、地球より重い。それでもお前が彼らごと殺すつもりならば、俺が止める」
烏間先生はスーツを脱ぎ捨て、走り去った死神を追いかけていった。その背中に向かって殺せんせーが「烏間先生、新稲さん作成のアプリをオンにして!!」と叫ぶ。
それを驚いた顔で見やったビッチ先生は、また笑みを浮かべて、自身についている首輪を取り外し、死神を倒すなんて無謀だといった。
「仲間だと思ってたのに」
クラスの皆の言葉に、ビッチ先生は下を向く。
「怖くなったんでしょ。プロだプロだいってたあんたが、ユル〜い学校生活で殺し屋の感覚忘れかけてて、俺ら殺してアピールしたいんだよ。私冷酷な殺し屋よ〜って」
カルマくんのそのあおりに、ビッチ先生は思い切り首輪を私たちのいる牢屋に投げつけた。
ビッチ先生はわなわなと震わせながら、叫ぶ。
「考えたことなかったのよ!!自分がこんなフツーの世界で過ごせるなんて!!弟や妹みたいな子と楽しくしたり、恋愛のことで悩んだり、そんなの違う。私の世界はそんな眩しい世界じゃない」
そういったビッチ先生の姿は、いつもの先生じゃなくて。
震えた小さな背中が、なんだか少しかわいそうに見えた。
そういったビッチ先生は二人を追いかけるように走り出した。
前に設置してあるモニターをながめる殺せんせーと皆を尻目に、私はゆっくりと立ち上がる。
「大丈夫か、新稲」
「ん、ありがとう三村」
ちょうど隣にいた三村が肘を突き出して支えてくれて、無事に立ち上がることができた。
不意に前の方で座っていた寺坂くんがこっちを不服そうに見ている顔が見えて、思わず小さく笑ってしまった。
「ね、三村」
「あぁ、新稲。多分俺たちが考えてるのは一緒だ」
空間処理能力というものに長けているのは、何も私だけではない。
三村と目を合わせてコクリと頷く。
「弱いなら弱いなりの戦法がある。いつもやってる暗殺の発想で戦うんです」
人類最強戦みたいな烏間先生と死神の戦闘を見ていた殺せんせーがそういったのをきっかけに、全員が辺りを見渡した。
「...つってもなーこの状態でどーやって...」
岡島がそう言葉を零し、キョロキョロと見渡す。私は三村とともに首を振り、全員の前に立った。
「全部が全部うまくいくとは限らない。だけど...」
「できるかも、死神に一泡吹かすこと」
三村監督の、一仕事がやってきた。
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