いつものように池袋に用事があって馬を走らせていれば、そこにいたのは中学から神羅と共に過ごしてくれていた優奈がいた。
ぼーっとしながら上半身を反らして空を見上げながらブランコに乗っている優奈に近づくため、馬から降りる。
身体中に目でもあるのか、まだ半径10m以内に入っていないにもかかわらず優奈は私の名前を間延びしながら呼んだ。
「セルティ〜」
「...あぁ、相変わらず気づくのが早いな。どうしてこんなところにいるんだ?」
そい問いかければ、優奈はブランコの鎖をぎゅっと握って勢いよく上半身を起こす。
「いや、仕事の休憩中なんだけど、何もすることなくて」
そう言って目を細めながら笑う優奈に、私も笑いながら隣に腰をかける。
笑うと言っても顔はないんだけれど。
「最近はどうだ?」
「んー特に何もないかなー」
「きちんと栄養は取っているのか?」
「うん、コーヒーは毎日飲んでるしね」
「それでも、何かしらものを食べないといけないんじゃないのか?」
「うん?んー...まぁそうなんだけど、私は小食の方だから、何とかなってるよ」
一度優奈が倒れた時があったな。
それはまだ神羅たちが高校生の時。慌てて神羅が優奈を連れてきた時は驚いた。
顔面真っ青になりながら、荒い呼吸を繰り返していたから。
静雄の背中でぐったりとしている優奈を見て、これはただ事じゃないと思った私が慌てて神羅の父親を呼んで。
軽い栄養失調だと言っていた時は、怒りで頭がただ真っ白になった。
親はどうしているんだと。何故食べ物を与えないんだと。
それでも、その怒りは全く必要のないもので。
そもそも優奈に親はいなかった。
「...もう、倒れてくれるなよ、優奈」
「あはは、うん。そんなこともあったね〜」
あの時のことを優奈もまた思い出しているのだろうか。
しばらく暢気に笑って、口を噤んで私を見る目はとても優しいものだった。
「あの時はどうもありがとう、セルティ」
私は何もしていないけれど、それでもあの出来事から数年経った今でもそう言ってくれる優奈が、私は大好きなのだ。
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