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「なー雪、腹減った」
「勇、敬語使いなさい」
「なー腹減った」

2歳年上の井伊雪は、俺と同じ狙撃手で、A級部隊に所属している女だ。
同じ東さんの弟子で、その時に何度か話をしたことがあった。

「もー今私レポートやってるんだからちょっと待ってくれない?」

今日は夜から防衛任務があるらしい雪を偶然たまたま、本部のラウンジで見つけたため、無理やり冬島隊の隊室に連れ込ませた。

めんどくさいという顔をしながらも、パソコンを持っておとなしくついてきてくれるあたりはさすが雪だと言いたい。

「まだか」
「あと10分」
「ったく仕方ねーな」
「勇が無理やり連れてきたんでしょうが」

年上の雪に敬語も使わずに呼び捨てをしている俺を、何度か雪がたしなめたり、いろんな人に注意をされたりしたこともある。
雪以外の年上にはさんを付けて名前を呼ぶし、崩れていてもとりあえずの敬語は使っている。隊長の冬島さんにだって敬語は使ってるし。

だからこそ、2歳年上の雪になんでタメ口なのかと言われるのだ。
そんな理由は至って簡単なことなのに、当の本人の雪は全くわかっていない。

「...寝るわ」
「んー」

ソファーに座ってパソコンを睨んでいる雪の膝に頭を乗せる。

そこでおとなしくしてろよ、というように俺のお腹をポンポンと叩く雪を見上げるが、でかい胸のせいでよく顔が見えない。

無駄にでけーんだよなこの胸。

以前無意識にわしづかんだらめちゃくちゃ怒られたこともあって手は出さないでおくが、下から見上げるこの山二つはなんとも見ごたえのあるものだ。

「終わったら起こせよ」
「はいはい」

最初の頃は膝枕なんて全くしてもらえなかった。当たり前だけど。恋人でもなんでもないし。
ただガキだった俺は、どうにかこの人に近づきたくて必死だった。

敬語を取れば、太刀川さんと会話するかのように話してくれんじゃないのか。
スキンシップをすれば、俺を男としてみてくれたりするんじゃないのか。

どれも試してみたが、こいつは俺をしょうもない後輩だとしか思ってはいないようだった。

それでもこうやって膝枕を許してくれるぐらいには距離も近づいて、あとはこの後輩と先輩、年上と年下という関係を壊せばいいだけだ。

今に待ってろ、という思いを心の中でしまって、俺は襲ってくる眠気に身を任せた。




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