年上好きの当真さん

次の防衛任務まで暇だなーとラウンジをウロウロしていれば当真さんがなにやら深刻そうな顔をして座っていた。
なにやってんだろあの人、と一緒にいた槍バカとじーっと当真さんを眺めていると、当真さんはいきなり顔をバットあげたかと思うと、俺らの姿を見つけてすごく残念そうにはぁと深いため息をついたのだ。

「え、なんで俺らそんなため息つかれなきゃいけないの」
「当真さんがため息とか珍し〜」

俺らは当真さんの座っている席の目の前に腰を下ろし、どうしてため息なんか?と尋ねた。
当真さんは俺らの顔をちらりと見ると、別になんでもねーよと少し拗ねた声でそう言った。

いやいや何かあったでしょ絶対。
心なしかリーゼントも少し垂れている気がする。

「何々、雪さんとなんかあったの、当真さん」
「あ、バカ弾バカ!!」
「バカバカうるせーよ!!」

槍バカの野郎がなぜか俺をバカと罵る。
なんだよいきなりといえば、槍バカは片手の指を当真さんの方にさしながら青ざめた顔のまま小さい声で囁いた。

「お前今井伊さんの名前呼んだだろ」

そう言われてハッとする。

そうだ、俺さっき雪さんって当真さんの前で言ってしまったんだ...!!

いつもは気をつけている。当真さんのいないところでは、雪さんとは読んでいるけれど、いかんせんこの人の前であの人の名前を呼ぶことは許されていない。

いや許されていないとかも意味わかんないんだけど。

「...」

じーっと俺を睨んでいるだろう当真さん。
見なくてもわかる。俺のサイドエフェクトが言ってるもん。

「ち、違うんです当真さん!!」
「そうですよ、当真さん!!今のは間違って言ってしまっただけであって!!」
「そうですそうです!!ほら、機嫌なおしてなおして!!」

槍バカと必死に当真さんの機嫌を直すためにあちこち手を動かしたり、後ろに回って肩を揉んだり、腕を揉んだり為る。

この人は雪さんのことになるとすぐに感情を出す。

いつもは飄々としてるただの狙撃変態野郎なのに。なんだろう、雪さんのことになると余裕がなくなるというかなんというか。

俺たちより一つしか離れていないけれど、普段はどことなく年上感もあるのに。
高校生の一つ上なんて、結構恐ろしいものなのだ。

「...別にー...怒ってなんてねーよ」

と、これまた珍しく唇を尖らせながらツーンとした表情で言った。
俺たちはまた顔を見渡して元の席に戻る。

「え、なに、本当どうしたの」
「いつもだったら怒るじゃん」



雪さんの事が大好きな当真さん。


というのは、ボーダーの中でも結構有名な話だと思う。
A級2位部隊に所属してる当真さんに同じくA級部隊に所属してる雪さん。
しかも同じ狙撃手で、同じ師匠を持っていて。

しかもしかも、同じ変態狙撃をすることで有名な二人。


そんな雪さんを、これでもかというくらい追いかけているのがこの同じく変態狙撃野郎の当真さんだ。

「今日は一緒にいないんですか?」
「いつもなら大体一緒にいるのに」

違う部隊ではあるけれど、よく一緒にいるこの二人。
当真さんが拗ねているところを見ると、何か説教とかでもされたのだろうか?

それもそのはず。俺のバカな隊長と同い年の雪さんは、当真さんの二つ上なのにもかかわらず、当真さんは雪さんのことを呼び捨てにしてタメ口で話しているから。
よく敬語を使えと雪さんたち大人組に言われているのを見かける。

それでもいつもタメ口を使うあたり、当真さんの意地というものが見えるのだけれど。


「...あいつが」
「「あいつ?」」
「雪が今、お前んとこの隊長に勉強教えてんだよ」

そう言って槍バカの方を見る当真さん。

雪さんが今、秀次に勉強を教えている。




「は、それだけ?」
「悪かったな!!」


思わずそう言って仕舞えば、当真さんは顔を少し赤くしてフンッと言いながら横を向いた。

この人は本当に雪さんのことになるとすぐこうだ。

「当真さんかーわいー!!」
「嫉妬ってやつですか!?」
「ウッセーよおまえら!!」

二人で当真さんをいじり倒す。なんだなんだ、可愛いところあるじゃねーか!!リーゼントをぐちゃぐちゃにしてやろうと手を伸ばせば、遠くの方から当真さんの名前を呼ぶ声が聞こえた。

いち早く気づいた当真さんが勢い良く後ろを振り返るのが見えた。

「勇、ごめんごめん、遅くなったね」
「おっセーよ雪」
「はいはい。何かご飯でもおごってあげるから」
「言ったな?」
「安いのにしてよね。あ、出水くんたちもいたんだね、お疲れ様」
「お疲れ様でーす」
「お疲れ様でっす」

雪さんが当真さんと話をしているのを見ていれば、俺たちに気づいた雪さんが笑顔を見せて俺たちに挨拶をしてくれた。あんなに機嫌よく雪さんと話していたのにすぐまた不機嫌オーラを出す当真さんに、俺たちは揃って苦笑をこぼした。

「二人ともどうしたの?」
「防衛任務まで暇なんですよ〜」
「あ、そうなの?」
「たまにはランク戦やりましょーよー」
「えー無理無理。二人とも強すぎるもん」

とか言って、一発で敵を仕留めちゃうんだもんな、この人は。すげーよ。

「勇持って行っても大丈夫かな?」
「大丈夫です大丈夫です」

むしろ持って行ってください。


「じゃあ行くよ、勇」
「んー。じゃーなーお前ら」
「お疲れ様でした〜」
「ウィース」

雪さんに腕を引かれる形で椅子から立ち上がった当真さんはだるそうに俺たちに挨拶をして、 雪さんは手を小さく振りながら笑顔を見せて、どこかへと歩いて行った。






「いやー...相変わらず雪さんの前では当真さんデレデレだな」
「それな。あの人年上タイプなのかね」
「だってもうずっとじゃん?あの人のアタック」
「いつか実んのかね」
「さぁ〜...迅さんに聞くのが早いんじゃね」

と、槍バカが言ったのを機に二人して口をつぐみそしてすぐに口を開いて出た言葉は二人とも同じ言葉であった。


「「それにしても雪さんの胸でけーな...」」


もしこの言葉を当真さんに聞かれた暁には至近距離0でアイビスを頭にぶち込まれているだろう。



prev next


ALICE+