たった一駅のために電車に乗りたくはないけれど、今日はあいにくの大雨。台風が近づいているらしい。そのためいつもは家にいない父でさえも家にいて、今日は電車を乗って学校に行きなさいと言ってきた。
まぁこんな雨の中歩いて行きたくないし。仕方ない、一駅分の電車賃を受け取って、私は駅へと歩いて行った。
「...あれ、寺坂くんじゃん」
「あ?」
ホームで並んで電車を待っていると、私と同じく電車で行くことを選んだのか、寺坂くんがホームに入ってきた。
寺坂くんは私に気付くと、並んでいる私の隣に立ち、よう、と挨拶をしてくれた。
「寺坂くんも電車?」
「あんな雨だと歩く気も失せるわ」
「わかる〜」
私たちと同じ考えの人もいたりするのだろうか、大雨ということで、ホームには人がたくさんいた。まぁ通勤ラッシュの時間でもあるからなんだろうけれど。
『電車が参ります。白線より下がってお待ち下さい』
アナウンスがなる。電車が来て、私たちは人ごみに押されながら電車内に入った。
一駅ぶんだけなので、なんとか寺坂くんに引っ張られるままにドア付近に立つことができた。
「大丈夫?」
「おう、みょうじこそ苦しくないか?」
「うん、私は大丈夫」
寺坂くんが私の前に立ち、人ごみに押し込まれないようにとなんとか私をかばってくれているのだとわかった。ドアに押しつけている腕がプルプルと震えている。
少しでも楽になればいいと思って、彼の持っているビニール傘を奪う。
「代わりに持っておくね」
「悪い」
「ううん」
傘を二本しっかりと手に持ち私は少しでも寺坂くんから距離を話そうと、ドアに背中をくっつける。
決して彼の近くが嫌だというわけではなくて。ただ単に、恥ずかしいのだ。
顔には出さないようにしているけれど、はっきり言って自分の鼓動の大きさがやばい。
たった一駅、たったの10分だ。早くすぎろと何度も頭の中で考えていると、不意に電車が大きく揺れて、寺坂くんの腕がグイッと曲がり、彼との距離が近づいた。
「わ、わり...!!」
「だ、大丈夫...!!」
がくんと足のバランスも崩れたのか、寺坂くん膝が私の足の間に入り込み、慌てて寺坂くんが離れようとした。
その瞬間、また大きく電車が揺れ、人のざわめきが大きくなるのがわかった。
かくいう私も、寺坂くんの距離が一気に近くなり、恥ずかしくて仕方ない。
足もさらに膝の間に入り込んでいるし、スカートが少しめくれ上がっている。何より寺坂くんの手が....手が...。
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