(高校編という形にさせていただきます)





今日も1日学校が終わり、私はカバンに詰めた教科書を丁寧に大きいものから順に並び替える。
あの濃い1年間が今や懐かしいものとなった。毎日暗殺して、どうやったらバレずにナイフをつき立てられるか、どうやったら律をもっと効率よく使うことができるか。そればかりを考えていた一年。

高校二年となった今じゃ、すっかり普通の学校生活にも慣れて。それでも毎日数学という私の生きがいは忘れてはいなかった。


「じゃあねーなまえー」

「うん、バイバイ、また明日ねー」


あの時培った人との接し方は高校生活でもうまく活用できていて。
しかもこの高校は私と同じ理系に強い人間ばかりがいる学校だから、数学が大好き、いや愛してるという自分の変人というレッテルはここじゃ普通のことだった。


「あ、みょうじ、今いいか?」

「村上くん?」


学校の玄関に向かおうと廊下を歩いている時、同じクラスの村上くんに声をかけられた。
できるなら早めに玄関に行きたいところだけど、彼が持っているのは明日提出の課題の最後の問題だ。どうやら解けない問題にぶち当たってしまったらしい。
教えてくれないかと懇願してくる村上くんに急いでるから、とも言えず。私は歩きながらでもいいかと許可を得て、隣で歩く村上くんに数学を教えてあげた。


「で、ここにさっきの式の答えを代入するの」

「あーなるほど...俺ここでlimを飛ばすことに気づかなかったわ」

「まぁここの一番の醍醐味だしね、それ」

「お前相変わらず数学好きなのな」


どうにか教え終わり、あと少しで校門に着く、という時。
村上くんはシャープペンシルと教科書を片手で持ちながらありがとうと一言言った。
それに対して、どういたしましてと言い、校門を出て目的の場所に向かおうとすると、村上くんがいきなり私の片手をつかむ。


「えーと...?」

「あー...のさ...」


困ったな...。
掴まれた右手を黙って見つめる。そのまま視線を上げて村上くんを見ると、彼は少し顔を赤く染めて、私の手を掴んでいない右手で頬を掻いていた。
放課後だというのにタイミングを狙ったかのように周りには人っ子一人いない。


「...俺、さ」

「うん」


この流れはあれだ。頭の中ですぐにその答えが出る。
こういう時、どうやって返事をすればいいのだろうか。


「俺、みょうじのことが好きなんだけど...」


村上くんはそうポツリと言うと、さらにその顔を赤く染め上げて、うつむいてしまった。
困った。これは本当に困った。
言わせないで遮ってさっさとこの場をされば良かったのかもしれない。けれど、ここまで言ってしまったのだから、何か私も答えないと。

こういう時、どうやって断れば...と、頭の中で模索していると、不意に自分の右肩が人の手にポンと叩かれた。
とっさに後ろを振り向くと、そこには竜馬がいた。少しむすっとしているような気がする。


「...誰だよ、あんた」


村上くんが睨み上げるようにして寺坂くんを見る。
男子平均身長がどのぐらいかは知らないけれど、普通の身長であろう村上くんとがたいのいい竜馬。身長の差は歴然としている。


「あ?こいつの彼氏だけど」

「...はぁ?」


竜馬はそう一言言うと、無理やり私の手と村上くんの手を引き離す。
村上くんは一瞬呆けていたけれどすぐに意識を戻して、嘘いうなと竜馬に向かって叫ぶ。まぁ確かにこんな柄の悪い人と付き合ってるとは思われないか、なんて内心笑ってしまった。


「うっせーな、じゃあこいつに聞いてみろよ」


竜馬が耳を小指でかきまわしながらどうでもよさそうにそう言う。
それでも竜馬は後ろから私の右手をきっちりと掴んでいた。


「...本当、なのか...?」


おずおずと村上くんが聞いてくる。私は内緒にしていたつもりもないし、するつもりもないため、笑顔でこくりと首を縦にふる。


「うん、そうだよ」


村上くんの口がこれでもかというくらい大きく開いた。







 
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