私は、肩をふるふると震わせた。隣にいる寺坂くんも顔が真っ赤だ。怒りで。
後ろいるのはクラスの皆。ニヤニヤ笑いながら、同じようにこの本をのぞき込んでいた。
「あのタコやろう...」
寺坂くんのその言葉とともにぐしゃりと紙の握りつぶす音が聞こえる。
突然岡島に、「みょうじこれ」と言いながら渡されたのは丸秘と書かれた紙の束だった。
ニヤニヤと笑みを浮かべている岡島に何かしらの危険は察知したものの、愛美には見せないように開いたそれには特別なやらしい写真なんてものはなくて、代わりに文字が羅列されてあった。
「何これ、本?」
「殺せんせーの机の上に置いてあったんだよ」
「殺せんせーの弱みを握ろうと思ってさ」
岡島だけじゃなくて前原くんもそう言う。この二人はクラスのゲストップ2だからな。
呆れながらもう一度その本を覗き込めば、なんてことはない小説だった。教室、やらE組、などの言葉があることからこの教室を題材にしたものなのだろう。
黙々と目を走らせていれば、気になったのか莉桜と原ちゃんが後ろに回って面白そうにその本をのぞき込んできた。
「...ん?」
途中、なぜだかみょうじ、や寺坂、の文字が多いなとは思った。
思ってはいた。というよりもこれは、私視点なのではないかと思った時、気づいた。
目の前の岡島と前原くんがニヤニヤ笑っている理由に。
「なにこれ...」
私の一言に、莉桜が堪えきれないとでもいうかのようにお腹を抱えて笑いだし、原ちゃんもほっぺを膨らませながら笑いをこらえていた。
ちょっとした騒ぎに気付いたカルマくんが、なになにと言いながら面白そうに私の持っている本を後ろから奪うと、ペラペラと紙をめくっていく。そしてある一点のところを見ると、莉桜みたいにお腹を抱えて笑いながら寺坂くんを呼ぶ。
「ちょ、寺坂くん呼ばないでよ!!」
「えーなんで?張本人呼ぼうよ」
へらへら笑いながらそう言うカルマくんに、岡島と前原くんはぐっと親指を突き出した。
その親指あとで折ってやる。
「んだよ」
寺坂くんが面倒臭そうに近寄る。
カルマくんが笑いながら、持っていたその本を寺坂くんに渡した。私はダメだと言って思わず手を伸ばすも時すでに遅し。
寺坂くんの方がずっと背が高いから、私が手を伸ばしても届かなかった。
彼の肩に手をつき必死に足を上げて覗き込む。
それに気付いた寺坂くんがわざわざ本を下においてくれたけど、そういうことじゃなくて、と言おうと思った時。
私はその文字を見つけた。
『好きだ、みょうじ』
その文字に寺坂くんも私も固まって。固まった私たち二人を見て莉桜とカルマくんが同時に笑い出す。岡島と前原くんも笑い出すし、渚くんは困ったようにカルマくんにドードーと言っていた。
そして冒頭のシーンに戻る。
気づけばクラス全員がその本を覗いていて、寺坂くんが起こりながらこめかみを震わせていた。
「あのタコ殺す」
「同意」
寺坂くんの言葉の後に私もうんと首を縦に振れば、ガラリと扉が開けられる音がした。
私たちはバッとその音の方を振り向くと、殺せんせーが教科書を手にして教室に入ってきていて。クラスの皆は私と寺坂くんを殺せんせーに見えるように横にずれていく。
「どうかしましたか?皆さん。授業を始めま...す...」
殺せんせーの声が小さくなる。
寺坂くんの持っている紙を見つけて、殺せんせーが大きい声でにゅやーーーー!!!!!と叫んだ。
「そそそそそ、それは!?」
「殺せんせー、丸秘なんて書いてるものは机の上に置くもんじゃねーぜ?」
「岡島くん!!丸秘なんですから見ちゃダメでしょう!?」
「丸秘だからこそ見たいじゃん?」
「前原くんまで!!」
「それにしてもこの二人をネタにするなんて、殺せんせーもやるねー」
「目指すはドラマ化です」
不破さんの声に殺せんせーが真顔でそう答える。
あ、切れる。と思ったのもつかの間、隣でぶちっと何かが切れる音がした。
「ぶっッッッッッッっ殺す!!」
寺坂くんのその声と、私が律を起動するのは同時だった。
この騒ぎに乗っかろうとクラス全員の手には対先生用のナイフや銃が握られていて。
「右左同時に射撃、同時に左後ろから前へ突撃!!」
「「「「「「「了解!!」」」」」」」
モバイル版律を握りしめて、クラス一人一人に指示を出す。殺せんせーは叫び声をあげながら逃げ惑う。
不意に床に散りばめられていた紙に目がいった。
『好きだ』
その文字に、少し鼓動が鳴るのをどこかで感じる。
だけどすぐに首を横に振った。今は暗殺の方に集中しよう。
もう一度上げた顔は暗殺者の顔になっているだろうか。
少し温度の高い自分の顔には無視をして、各々攻撃をしている皆に指示を出して行ったのだ。
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