04

「おはよーなまえちゃん!」
「ん…」
「オレ仕事行くから、なまえちゃんテキトーに帰っていいからね。鍵はいつものとこ置いといて! あ、勿論晩御飯作って待っててくれてもオッケーだよ!」
「んんー」
「じゃあ行ってきます!」
「ん……てら……い」



目を覚ますと百さんはいなかった。ぼんやり明け方頃の会話を思い出すと、そういえば仕事だとか言ってたっけ。自分で布団に入った記憶が無いということは、多分百さんが運んでくれたんだろうな、全然覚えてないけど。

『行ってきます!』

机の上の書き置きを見て、心がほっこりした。わたしがゆめうつつだったこと、わかってたらしい。書き置きを丁寧に折りたたんでカバンにしまって、遅めの朝食を食べたわたしは晩御飯の用意を始めた。



* * *



「ただいまー…なまえちゃん!」
「おかえりなさい、百さん」

帰ってきた百さんを出迎えるとめちゃくちゃ驚かれた。まあそうだよね、帰ったと思うよね。ご飯食べたら帰りますよー。百さんは嬉しそうに笑った。うん、いい笑顔だ。

「仕事どうでしたか?」
「楽しかったよ!」
「それは何よりです」

百さんと雑談しながらご飯を食べる。普段家で食べる時は一人ぼっちだから、やっぱり誰かと食べるのって楽しいし美味しい。百さんと一緒だと会話が途切れないしね。
あ、でももう寮には7人も人が増えたから、食べようと思えば大人数で食べれるのか。

「ごちそーさまでした!」
「お粗末様でした」
「なまえちゃん帰るよね、送ってくよ」
「いいんですか? やった!」

百さんは「ちょっと待っててね!」と言って食器を洗い出した。いい子だ…。いや、わたしの方が年下なんだけどさ。
食器を洗い終えた百さんと一緒に部屋を出て、百さんの車の助手席に乗った。いつも通り、マスクと帽子はつけた。
ただ最近は、あんまり帰りの写真は狙われなくなった。そもそも写真を撮られること自体減ってる気がする。百さん本人に向けられたものは多分増えてるんだろうけど、わたしのことは飽きたっぽい、良かった。まあだからって、油断はできないんだけどね。

「いつものコンビニでお願いしまーす」
「オッケー」

乗りこんでシートベルトを締めると、百さんの運転する車は滑らかに走り出した。車内は小さくRe:valeの曲が流れている。これは昔の曲。Re:valeの事大好きなんだな。

「そういえばこの前、なまえちゃんの記事見ちゃった」
「へえ、今回はどんなのでしたか?」

わたしの記事っていうのは、まあ"Re:valeの百の家に度々訪れるあの人物は何者か"っていう感じの記事のこと。殆どが見当違いな推測をたててるから、暇つぶしに見る程度なら面白かったりする。
百さんがわざわざ報告をしてくるってことは、たぶんこの前見た記事は面白かったんだろうな。

「なまえちゃんが分身してた」
「はあー?」

思わず百さんを見ると、彼は笑っていた。伊達メガネの奥の、ルビーのような瞳がキュッと細められる。

「オレはなまえちゃんが好きなんだけど男のセフレがいて、なまえちゃんはその男が好きで、そいつの気を引きたくてオレの家に来てるらしいよ。で、そのことを知ったオレの幼なじみが来て修羅場になってるんだって」
「その記事書いた人、小説家に転職した方がいいんじゃないですか?」
「面白いよね!」

実際には百さん以外の登場人物はわたしひとりなのに、なんだそのよくわかんないドロドロ展開。まず百さんのセフレが男な所に意義を申し立てたい。いや、そもそも百さんにセフレなんて居ないけど! ……いないよね?

「でもそれだけなまえちゃんの変装が完璧ってことでしょ? 良かったじゃん!」
「いや、どう考えても記者の頭がちょっとぶっ飛んでるだけだと思うんですけど…」

変装って言ったって、体のラインがわからない服を着て帽子被ったりマスク着けたり伊達メガネかけたりそんなことしかしてない。今の百さんもマスクと眼鏡という花粉症対策みたいな軽い変装しかして無いんだけど、これバレないの?
そんなことを話しながら(百さんが)車を走らせて、目的のコンビニに着いた。

「ふー、どうもありがとうございました、百さん」
「どういたしまして。またご飯食べに来なよ!」
「それって作るのわたしじゃないですか?」
「まあね! じゃ、またね」
「はい、おやすみなさーい」

軽く手を振って百さんと別れた。ここから寮までは10分くらい。そういえばあの7人ってご飯とかちゃんと食べてんのかな。うーん…せっかくコンビニ来たんだし差し入れでも買ってこ。いらないっていわれたら自分で食べればいいし。
わたしは主に自分の食べたいものをカゴに放り込んで、コンビニを出た。

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