06
「えーと……」
要約。TRIGGERの九条天は七瀬の双子の兄で、昔家族を捨てて九条という男の養子になり、アイドルになった。それ以来七瀬は九条天に会うためにアイドルを目指していて、ようやくその夢が叶いつつある、ということらしい。
「七瀬は九条天に会いたくないの?」
「オレ…わかんないんです。天にぃのこと嫌いなのか、好きなのか、許したいのか、許せないのか…」
「そっか…」
七瀬がそんな問題を抱えてるなんて思ってなかった。寮に来てしばらく経つけど、普段の七瀬は明るくて元気で、周りを笑顔にさせる力を持っている子だ。どうしよう、活動禁止で元気の無い七瀬を元気にしたかったのに、逆に落ち込ませてる。
こんなときマネージャーの紡ちゃんなら、七瀬を元気にしてあげられるのかな。
「あ、ごめんなさい! せっかくなまえさんがケーキくれたのに…」
「いや、うん、わたしのことは気にしないで」
「はい…。あっ、なまえさんTRIGGERのライブ見たことありますか?」
年下に気を遣わせてしまった…。情けない…。あからさまに話題を変えた七瀬だけど、そういえばTRIGGERのライブかー。
「見たことないかなあ」
「じゃあなまえさんも来ようよ!」
「は?」
名案! というように手を叩いた七瀬だけど、ちょっとごめん意味がわかんない。何でわたしがついてくの?
たぶんだけど七瀬たちがTRIGGERのライブを見に行くのは所謂社会見学のようなもの。チケット代は経費のはずである。マネージャーの分を含めた8枚のチケットを用意することは、小鳥遊事務所にとって簡単なことではない。そこにただの寮の管理人が同席しようなんて立場を弁えろって話だ。事務員も紡ちゃんも、他のメンバーだっていい気はしないでしょ。七瀬のお誘いはありがたいけど、わたしは行けないよ、うん。
「マネージャーも良いって!」
「え」
断ろうと口を開いたわたしより早く、七瀬は笑顔でスマホの画面を押し付けてきた。確認すると、紡ちゃんから『なまえちゃんの分ならまかせてください!』というメッセージとキリッとした表情の王様プリンのスタンプが届いていた。
でもまだメンバーは納得が…と思った瞬間、新着メッセージの通知が来る。七瀬は画面を確認してたちまち笑顔になった。
「みんななまえさんなら歓迎だって! 良かったねなまえさん!」
「え、ああ、うん、そうね……」
「嬉しいなあ、なまえさんと出かけるの」
ちょっと七瀬、そんな可愛い顔でそんなこと言っちゃダメだよ、お姉さんちょっとドキってしちゃったじゃん。
「そうだ、なまえさんはTRIGGERの曲わかりますか?」
「えっ…うーん、あんまりわかんないかも」
「じゃあ覚えましょう! オレ、DVDいっぱいあるんで、持ってきますね!」
「えっちょっと、七瀬!?」
勢いよく立ち上がった七瀬はわたしの制止などお構い無しに部屋を飛び出していった。ポカンとしていると直ぐに足音が聞こえ、大量のDVDとCDを抱えた七瀬が帰ってきた。
「なまえさん、まずこれからです!」
もしかしてこれ全部見るの? まじで?
七瀬は何故かテキパキとDVDをセットして再生を始める。わたしの部屋なんだけど、なんか手馴れてるな?
まさか人生初のアイドルのライブが、百さんのいるRe:valeではなくTRIGGERになるなんて…。百さんに知られたらめんどくさそーだし、バレないようにしようっと…。
七瀬は映像を見てニコニコしながらフォークをケーキに刺した。まあ、うん、七瀬が元気になったなら良かったけどね。