――眩しい光に包まれてすぐ、床を踏みつけていた感覚がなくなった。すぐに下を向いてみる。いや、待って。


「(落ちてる――――!?)」


 よく見ればさっきと見える景色も違っている。電球色でオレンジがかって見えていた応接間ではなく青々とした空が私の視界に映っている。……空?
 「いやいやなんで私空から落ちてるの!?」なんて考えている間にも地上は近づいてきている。なんでこういう状況になったのかを考えるよりもどうやって着地するべきかを考えないといけないのかもしれない。


「(……うん。着地の方法がぜんぜん思いつかない)」


 「そりゃそうだ着の身着のまま空からダイブなんかしたことないもんんんんんん!」なんて叫んでいる内にはっきりと地上が見えてきた。というか結構早い段階で見えていたバカでかい建物――日本の城ようなものに向かって私は落ちているようだ。
 歴史も地理も苦手だから見えている城のようなものが何なのかわからないけどこのまま落ちて突っ込みでもしたら建造物破壊になる気がするていうか絶対なる。
 何としてでもそれだけは避けなくては……!と落ちても問題なさそうな場所を必死に探していると城の敷地内に大きな池があるのを見つけた。もうあそこに飛び込むしかない――!
 真っ逆さまに落ちながら空中でバタバタ暴れて方向転換を試みた結果城っぽい建物に突っ込むのは免れそうだった。


「(あとは無事に池に飛び込むだけ…………。あれ?池って深さあるんだっけ?)」


 これだけの落下の勢いで落ちても無事で済むほど池に深さがあるかどうかを確認するべく目を凝らしてみると、池の傍で白くて大きな布が揺れているのが見えた。


「(何かの目印……?あ、違う)――……ひとだ」


 布の下から少しの金色が覗いて、澄んだ緑色と目が合った。「う、」


「受け止めてください!!!!」


 思わず口から出てしまった「受け止めてください」という言葉。自分でも相当な無茶ぶりだとわかっているけど口から出ちゃったものは仕方ない。白い大きな布を頭から被った人が私の言葉を無視すればそれまで、最初の予定通り池に飛び込むだけだ。
 そう思っていたのだけど、意外にも布の人(雑な呼び方でごめんなさい)は腕を広げて、私を受け止めるための態勢を取ってくれていた。

 布の人の優しさに感謝しながら、できるだけ負担にならない落ち方をしようと両手を握って体を縮こませる――。


 ――――布の人の腕に向かって飛び込んだ瞬間、ぶわぁと大量の花びらが舞った。


 花びらが桜の花びらだと気づいた頃にはどういう原理なのか大量のそれは消えてしまっていて、花吹雪によって頭から被っていた布が取れてしまったらしい金髪のイケメンとそのイケメンにお姫様抱っこされている私だけが残された。

 ただでさえ異性との交流がほぼないに等しいにも関わらず、お姫様抱っこをされている事実と息がかかってもおかしくない距離にある見慣れないめちゃくちゃ整ったお顔。
 緊張と恥ずかしさあと空からの落下で今にも心臓が突き破って出てきそうなのでそろそろ降ろしてもらえないかやんわりと伝えてみる。空から落ちてきた人間を受け止めてもらってさらに心臓まで受け止めさせるのはさすがに申し訳ない。


「その、ありがとうございました」
「いや……。大したことはしてない」
「おかげで怪我しなくて済――……ッ!!!?」


 取れてしまった布を目深にかぶり直したイケメンの腕にぐるぐる巻きにされた包帯を見て言葉を失った。


「ごごごごごごごめんなさい」
「は?」
「だって私のこと受け止めたりしたから――!」


「腕折れちゃってる!!!!」


 ぜんぜん痛そうにしてないから……私が見てなかっただけかもしれないんだけど、受け止めてもらえて良かったお互い怪我してなくて良かったとか思ってしまっていた。
 普通に考えて上空から落ちてくる人間を受け止めて腕に負荷がかからないわけない。


「(治療費?慰謝料?ていうか救急車呼ばなくていいの!?)」
「……――、」


 急に一歩下がって「どうしようどうしよう」と情けない声を出し続ける私に対し布のイケメンは呆然としていた。……「せっかくのイケメンが台無しですよ」って言いたいけど間違いなく今言うことじゃないだろうな。


「と、とりあえず救急車呼びますね……!?」
「……呼ばなくていい。あんたを受け止めたからこうなったわけじゃない」


 「それに腕も折れてない。大げさにされているだけだ」そう続けながら自身の腕にぐるぐる巻きにされている包帯を忌々しそうに見つめている布のイケメン。腕だけじゃなくて首や脚にも包帯が巻かれている。よく見ると、整ったお顔にも血で固まった切り傷がある。

 私のせいではない。そう言ってもらえて内心ホッとする。でも元々怪我してる腕で受け止めてくれたのだとしたら悪化してる最悪折れた可能性があるんじゃ……!?
 

「やっぱり救急車呼んだ方が……!」
「だから呼ばなくていい。――……本当にあんたが、後任の審神者なのか?」
「へ?」


 再び情けない声を出していたらふと耳に入って来た さにわ という単語。
 某博物館の地下にあった応接間にいたスーツを着た偉そうな男性も さにわ って言ってたことを思い出す。

 布のイケメンの怪我の心配ですっかり頭から抜けていたけど、そもそもここはどこなのだろう。
 ついさっきまで室内にいたはずなのに気づけば空にいて、落ちた先には日本の城っぽい建物があって。若干パニックになっていたから記憶が曖昧だけど、落ちている途中で見えたのは目の前の建物以外山しかなかった。

 私と布のイケメン。互いに首を傾げていると、頭に急に重力がかかった。……のは一瞬で、私の頭に”何か”が乗っかったのだと気づいたときには”それ”は地面に飛び降りていた。


「申し訳ありません。転送位置を間違えてしまったようで」
「…………。」
「お怪我はないですか?」


 怪我はないかと聞いてきた化粧をしたキツネと、「は、はい。大丈夫です」と真面目に答えている私。いや他にもっと言いたいことある。


「(キツネが喋ってる……!?)」


 私に怪我がないと聞いて安心したのかただの建前だったのか、化粧をしたキツネは「そうですか」とだけ言って、布のイケメンに向きなおった。


「新しい審神者とすでに会っていたのですね」
「出迎えろと言ったのはそっちだろう」
「…………、」


 「え?なんで普通に喋ってるの?キツネが喋ってるの不思議じゃないの?」と1人蚊帳の外になっている私に気づいてくれたらしい化粧をしたキツネが「申し遅れました」と口を開いた。


「このたびここ____本丸と後任の審神者様のサポートを命じられたこんのすけといいます」


 「こんのすけ、と呼んでいただいて結構ですよ」と続ける化粧をしたキツネ……もといこんのすけ。この際喋ってることはもうスルーしよう。なんで喋れるのか説明してくれる気なさそうだし。

 化粧をして尚且つ喋れるキツネよりも気になるのが、____本丸と さにわ という単語。
 一体私にどんな関係があるのかだけは説明してもらいたい。それが伝わったのか偶然なのか、こんのすけが「外ではなんですから、本丸の中に入ってからにしましょう」と言って縁側へ向かっていく。我が物顔で縁側から室内へ入る様子を眺めていると、ふと視線を感じた。顔を上げれば布のイケメンと目が合う。


「……?」
「……いや。なんでもない」


 「あんたも早く入れ」と室内に入るように布のイケメンに促されて、スニーカーを脱いで縁側に上がり城っぽい建物の中へと足を踏み入れる。……田舎のお婆ちゃんの家感があっていいな。

 襖を開けた先は真ん中に大きなテーブルと階段箪笥が置かれたシンプルな部屋だった。ザ・和室という言葉が似あうと思う。テーブルの上にノートパソコンさえなければ。
 
 座るように促すこんのすけに従って大人しく畳の上に正座をする。布のイケメンは、壁に寄りかかって話を聞くようだった。



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