晴れて四月より大学へと入学……というのはもう2年前の話であり、歩き慣れた住宅街の狭い道を歩く初霜ことははもうすぐキャンパスライフの3年目を迎える。
入学したばかりの頃は憧れの大学生活に浮き足立ち、無駄に授業を取ったおかげで2年生になったときには少し楽ができた。そのせいか羽を伸ばし過ぎた気もする。
3年目に突入するにあたって就職説明会やらインターンシップなど所謂就活に学生生活の半分を費やす時期になり精神的に参ってきた今日この頃。
つい先程授業が終わり、自宅に戻ったことはは着ていたフレアースカートとニットを脱ぎ捨てスキニージーンズとティーシャツの上にパーカーを羽織った動きやすい恰好に着替え、すぐさま家を出た。
向かうはことはがお世話になっているバイト先のコンビニ。
大学入学のために実家から出て一人暮らしを始め、借りているアパートから最も近いという理由でコンビニを選んだことは。
大学生活と同じくアルバイトも3年目を迎えることはは今日も変わりなく仕事をこなすつもりでバイト先へと足を進めていた。
「…………――ありがとうございました」
マニュアル通りのあいさつをしながら会計を終えた客を見送り、次の客のレジをする。
勤務開始から2時間ほど経ったあたりで喉に渇きを感じ本日のパートナーである専門学生のアルバイトに「飲み物買ってきます」と声をかけ、更衣室から小銭入れを取ってきた。
ユニフォーム姿であることも忘れテトラパックのお茶でも買おうと売り場で商品を吟味していたことはに「あの、レジ混んでますよ……?」と客から控えめに声がかけられ、慌ててレジへ飛び込むのだった。
「(つ、疲れた……)」
ようやく客足が減り店内が落ち着いて来た頃、大量に商品が納品されてきた。
喉の渇きのことなどとうに忘れ「品出ししてきますね」と伝えてことはは再びレジから離れた。
納品された商品を売り場に陳列していき、入りきらなかったものはバックヤードの棚に整理しながら並べていく作業をしていたが、身長150と少ししかないことはが高い位置に商品を並べる作業に苦労していた。
キョロキョロと辺りを見渡し踏み台用の木箱を見つけるものの、木箱の上に積み上げられた雑誌の山を見てしまいとてもじゃないが木箱を使う気にはなれず、ものぐさな性格のことはは棚に足をかけて作業を続けようと試みた。が、
「あ、うわっ」
「まずい」と思ったときにはすでに遅し。
簡易に作られたバックヤードの棚が急な重みに耐え切れずことはに向かって倒れてくる。
手始めに落ちてくるのは棚の最上段に積み上げたカップ麺が詰まった段ボール、次に一つ一つ綺麗に並べたカップ麺たち。最後に重そうな棚が目前に迫る。
「(ちゃんと木箱使えば良かった――!)」
ガシャーーン!
夜中の11時。静かなコンビニに大きな音が響き渡る。
某都市部から少し離れにある公園にて。
時刻が時刻なだけに人通りは少ないのは当たり前だが現在ドローンによって周辺一帯を封鎖しているため、いるのは暗い闇に紛れてしまいそうなスーツと其々多様なコートを羽織った者が数人いるだけだった。
「……――ここだな。逃走した潜在犯が逃げたというのは」
銀色のフレーム眼鏡をかけた男、宜野座伸元が手首についたデバイスを操ると瞬時に現れたとある男の詳細。
名前と生年月日、血液型に親類職種。そして――、
「最後に街頭スキャナで色相チェックしたときには相当濁っていた。早く始末をつけないとまずいことになるかもなぁ」
「やれやれ」と続けたのはここにいる者の中で年端の行った男、名は征陸智己。
そんな征陸に「貴様に言われずともわかっている」とぴしゃりと宜野座は言い放つ。
「でもさぁ、公園なんかに逃げ込んでどーするつもりなんですかねぇ」と明るい髪色を跳ねさせながら縢秀星は辺りを見渡した。
市街地は巡回用のセキュリティドローンがそこかしこに配備されている。
しかし廃棄区画というドローンや監視の目が行き届かない場所が存在しているのだから、公園に逃げるよりもそっちに逃げた方が利口なのではと縢は考えた。
もちろんこちらとしては廃棄区画に逃げ込まれてはものすごく手間になるためただ広いだけの公園に逃げ込んでくれて助かったのだが。
「周辺はすでにドローンが固めているから奴に逃げ場はないが、長引かせるわけにはいかない」
もう一度デバイスで現在の時刻を確認し宜野座は縢の隣に立つポニテールの女性、六合塚弥生に目をやる。「よし、」
「縢と六合塚は俺と南東側を捜索。残りの二人は北西側を――、」
「ぎゃっ」
「「―――!」」
どすん!と重たい物音のともに聞こえた情けない悲鳴。さらにコトンコトン、と次々に何かが転がり落ちてくる物音。
その場にいた全員が振り返り手にしていた黒い得物――ドミネーターを構えた。皆に緊張が走る。
物音の近く寄ろうと宜野座が真っ先に動き出そうとするが、それを征陸が手で制し自らが目を凝らしながら近づいていく。
ようやく姿形がはっきり見える距離まで近づくと、うつ伏せに倒れた少女が唸りながら腹部の辺りを押さえている。
「イタタ――……。(思いっきりお腹打った……!)」
「お、お前さんどうやってここに……――」
「へ、」
征陸の驚きの声に反応した少女が顔を上げた。そして、
「な、ナイスミドル」
と一言口にしたのだった。
突如として現れた少女への驚きが大きく、各自手にしたドミネーターが放つ音声に誰も気づいていなかった。
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