「どうやってここに、」と目の前で驚きの表情を浮かべている征陸に対し「かっこいいおじさんだなぁ」と思った結果ことはの口から出てきた言葉が「ナイスミドル」だった。
突如として現れうつ伏せに倒れた少女からナイスミドルと褒められた征陸が「なんだって?」と困惑しながらも「いや、そんなことより」と思考を巡らせる。
「なんか困らせるようなこと言っちゃったかな……」等と他人事のように考えることはの視界に、眼鏡をかけた男性が飛び込んできた。
「貴様!どこからここへ入り込んだ!?」
怒号のような宜野座の怒鳴り声。
そのあまりの気迫に思わず「ごめんなさい!」と慌てて起き上がり固められたコンクリートの上にことはが正座をする。
起き上がってから正座をするまでのスピードの速さに一係のメンバーが唖然とした。宜野座も然りだ。
気づかれない程度に頭を振り、もう一度「どこから入って来た?」と問う。
どこからと言われても……。というよりもここがどこなのかを先に知りたい。それがことはの心情だった。
いきなり怒鳴られすっかり萎縮したことはは盗み見るように視線を動かし自分に向けられている”もの”に気付く。
「え……――、」
拳銃。現代の日本では通常警察官や類する職種の人間しか所持を認めておらず一般市民が携帯または所持していると銃刀法違反とされ刑罰を受ける。
ということは今自分を囲い拳銃のようなものを向けているこの人たちは警察官なのだろうか。それならば携帯していても不思議ではない。
……不思議ではないが、何故自分が拳銃のようなものを向けられているのか。
ことはに向けられている”それ”はアニメや漫画、ドラマや映画で見てきたものとは形は異なるが、一瞬で自由や命さえも奪うことのできるものだと理解する。
改めて自分が置かれている状況を理解したとき、血の気が引いて行くのがわかった。
「聞いているのか」と射殺さんばかりの視線で睨んでくる宜野座から目を離せずにいると――。
「――……待てギノ」
今まで黙って見守っていた男、狡噛慎也が咥えたタバコに火をつけ「少し落ち着け」という言葉と一緒に煙を吐きだした。
「俺は落ち着いている!」と噛みついてきそうな勢いの宜野座に「それならドミネーターをそいつに向けてみたらどうだ」と狡噛が冷静に返す。
「俺はこいつが現れてからドミネーターを背けたことは――」
「……おかしいわ」
握っているドミネーターを見つめ「おかしい」と呟く六合塚。
まるで未知なるものを見るかのように六合塚はドミネーターとことはを交互に見ている。それは縢と征陸も同じだった。
<<サイマティックスキャン、エラー。存在しないサイコパス(PSYCHO-PASS)です。>>
「何がおかしい」と問うよりも早く、機械的な音声が宜野座の耳に届いた。
機械的な音声はドミネーターを手にする本人にしか聞こえないものだ。それはここにいる一係全員に聞こえていた。
「どういうことだ……?シビュラシステムの異常か?それともドミネーターの故障……」
「だったら俺に向けてみろギノ」
ゆっくりと宜野座のドミネーターが狡噛に向けられる。
映し出される狡噛の情報と宜野座にしか聞こえない指向性音声。
<<犯罪係数オーバー100、刑事課登録執行官。任意執行対象です。セイフティを解除します。>>
「……正常に起動している」
「ドミネーターの故障じゃないみたいだな」
「――――っおい!」
「っ、」
皆の意識が完全に自分から逸れていると思い油断していたことはだったが、再度宜野座に怒鳴られ肩を大きく揺らしてから恐る恐る顔を上げた。
「存在しないPSYCHO-PASSだと?そんな人間がいてたまるか!」と怒鳴る宜野座がことはを睨み黒い拳銃のようなものを向けている。
「答えろ!一体貴様は――」
「まぁ待て伸元。そう怒鳴ってばかりじゃ嬢ちゃんが怖がって話もできねぇだろう」
渋みのある声の持ち主……征陸が「俺に任せてくれ」と制せば宜野座は苦虫を潰したような顔をした。
そんな上司に対し苦笑いを零し、ゆっくり屈むとことはと視線を合わせる。
「なぁ、」と話しかければ、恐怖からか少なからず後ずさりをすることは。
何せここにいる全員からドミネーターを向けられていたのだ。何より宜野座のあの気迫。普通の感性を持っている人間なら怖がらない方がおかしい。
「わかったわかった。この距離でいいから俺の話を聞いちゃくれねぇか」
「…………、」
「俺は征陸智己。嬢ちゃんの名前は?」
人に好まれる笑みを浮かべ名乗る征陸の様子を一係の面々が見つめている。
ことはも征陸が自分を怖がらせないようにしてくれているのだと理解して小さい声ながらもしっかりと名乗った。
「いい名前じゃねぇか。……それでことは、お前さんどうやってここへ入ってきたんだ?」
一係が追ってきた潜在犯がこの公園に逃げ込んですぐにドローンによって周辺一帯は封鎖され無人と化されている。
つまり、ここに入って来れるのは公安局の人間だけのはず。
……征陸の低く優しい声がすんなり耳へと入ってくる。ことはが怖がらないよう気遣ってくれているのだ。
それに応えるべく、震える唇に叱咤をして口を開いた。
「……わからない、です」
「わかんねぇって……。お前さん自分でここに来たんじゃ――」
「わからないんです……!お店のバックヤードで仕事してたはずなのに、気づいたらここに倒れてて、征陸さんたちがいて――」
「そんな話を信じると思うのか!?」
静かに話を聞いているのかと思っていたが「貴様がここに来た理由はなんだ!?さっさと本当のことを話せ!」と言いことはに迫ろうとする宜野座を征陸が必死に止める。
理不尽にも再三怒鳴ってくる宜野座から逃げ出したい気持ちに駆られながらことはは「嘘なんか言ってません!」と返す。
「本当にお店で仕事していたんです!」
「――ねぇ。君がしてた仕事って何なわけ?」
ことはの周りに散乱しているプラスチックの容器――カップ麺を手に取った縢が「ていうかこのカップ麺なんなの?」と言った。
どれも見たことのあるそれ等はことはがついさっきバックヤードの棚に並べていたカップ麺たちであった。
「私コンビニでアルバイトしてて……、これはその、なんでカップ麺がこんな風になってるのか私もわからないんですけど」
お店の商品を勝手に外に持ち出した挙句、散乱させたと店長に知られればどんなお咎めを喰うのやら。とは言ってもことは本人の意思でやったわけではないので非常に不本意であるが。
それでも知らない人に怒鳴られるよりも店長のお咎めの方がよっぽどマシだと思い早くお店に戻りたいと説に願った。
「は……?コンビニ……?」
「は、はい。コンビニの、アルバイターです」
「マジで言ってんの」
「え?」
縢のまるで人をバカにしているような態度。征陸も宜野座も、六合塚も狡噛さえもが「何を言っているんだ」という表情をしている。
ことはは「コンビニでアルバイトしてて何がいけないんだ」と唇を尖らせた。
「ま、マジも何も、私が今着てるのコンビニのユニフォームですし、そんなにおかしいですか!?コンビニのアルバイト!」
2年間やってきた仕事がバカにされているのだと思いことはの鼻息が荒くなる。
「おかしくはないさ。……コンビニのアルバイトってのがここ何十年前にいなくなってなけりゃな」
狡噛の一言で今度はことは自身が「は?」という表情をすることとなった。
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