悟飯やチチの好意に甘え、孫家に居候させてもらうことになったことは。
家が壮大な山中にあることもあり生活の基盤はほとんど自給自足。悟飯と悟天が巨大魚や恐竜、果てには虫を捕まえてきてはそれがおかずとして出て来るのは当たり前。
忍の仕事柄野宿もやむを得ないこと多々あったことはにとってまともな食事を得られない状況には慣れている。
魚を捕まえたり山菜や野草を取っては腹の足しにすることなど任務の最中なら当たり前、むしろ贅沢な方だ。パオズ山の恵みに感謝しなくては。
……が、まさか虫まで食べることになるとは誰が思うだろう。
恐竜を食べれるというのも驚きである。(ていうか存在してるのがすごい)
「ことはさん!遠慮なんてしてたら食いっぱぐれるだぞ!?」
と、チチから言われてしまえば箸を伸ばさないわけにいかない。そして遠慮していたわけではない。
「い、いただきます……」とおそるおそる恐竜の尻尾と思われる肉の塊へと箸を伸ばす。
兵糧丸を食べた方がまだマシなのではと思いつつ肉の塊に噛みつくことは。(あ、あれ?)
「どうですか?お母さんの作った料理」
「美味しいでしょう?」と言う悟飯の顔には笑みが浮かんでいる。
ことははもっと野性的な味がするのではないかと想像していたのだが、料理した人の腕前か高級なステーキのように変身していた恐竜の尻尾。
「おいしい……、」と素直に口から零せば悟飯が浮かべた笑みはますます深くなった。
「オラが作った飯が不味いわけなんかねぇべ!」
胸を張り「どんどん食べてええだからな!」と山盛りになった熱々の中華まんがことはの目の前に置かれるも、一瞬のうちに悟飯と悟天の口の中へと消えていく。
どうやら食べ盛りが二人もいる孫家で飯時に遠慮なんてしていたら本当に食いっぱぐれてしまいそうだ。
「おかわり!」「お母さんボクも!」「オメェたちは少し遠慮してけれ!」と会話をしている三人を見ながら「賑やかだなあ……」と心の中で呟きながらもその賑やかな雰囲気の中にことはがいられることを感謝するのだった。
あえて避けていた虫料理も美味しいと思えるようになった頃、「外で遊んでくるー!」と今日も元気に出て行った悟天。
始めこそ心配で仕方のなかったことはは悟天に着いて歩いていたが、悟飯とチチから「そんなに心配しなくても大丈夫」と声を揃えられ様子を見ていると、確かにことはの杞憂だったようだ。
言われてみれば七歳にして自分より何倍も大きい体躯の恐竜を仕留められるのだからことはが心配することは何もない。
とは言えことはが孫家に来るきっかけとなったのが予期せぬ悟天との衝突であった訳であるし、朝食の片づけを終えると悟天の後を追いかけるのがことはの日課になっていた。
「ねぇねぇことはさん!」
「どうしたの悟天君」
パオズ山は忍の修行において打ってつけの場所であり、岩山を駆け登り木々の枝を渡り広い草原を駆け抜けながら夕食のおかずになりそうな野草を探していたとき。
まだ子供であろう恐竜と遊んでいたはずの悟天がニコニコと笑顔を浮かべ「ねぇねぇ!」とことはの服の裾を引っ張っていた。
「対決ごっこしよう!」
「た、対決ごっこ…………?」
これまでも駆けっこやかくれんぼはしたことがあるものの、まさか対決ごっこなどと物騒な遊びに誘われるとは思わずことはは目を丸くする。
「ていうかなんで急に……、」と問うてみれば、なんでも日々一緒に遊んでいるうちに「もしかしたらことはさん戦ったら強いんじゃないかなーって!」という考えに至ったらしい。
確かにことはは上忍の階級を持っているし体術ももちろん心得ている。
純粋そうな目をキラキラと光らせている悟天に「ね、いいでしょ!?」と言われてしまえばことはは「いいよ」としか返すことができなかった。
とは言え相手は七歳の男の子、アカデミーの生徒に修行をつけるつもりでやればいいだろう。そんな気持ちでことはは構えをとる。
「それじゃ、いくよ――――ッ!」
地を蹴った悟天が一瞬にして消えてしまう。――――否、速すぎてことはの視界から逃してしまったのだ。
大いに油断していたことはは咄嗟に視線だけを動かし悟天の姿を瞬時に捉え腕でガードするも、力強い蹴りで体が横に傾いてしまう。
体制を整えるより先に次々と繰り出される悟天の蹴りや拳を必死に防いでいたことはだったが、右頬に重たいパンチをもらい容易く体が後方へと飛ばされていく。
あまりにも呆気なく吹っ飛んでいったことはを見て「や、やりすぎちゃった……」と慌てる悟天。しかし、
「へ?」
思い切り背中から大木にぶつかったのと同時にボンッ――という音と煙を立ててまさしく消えてしまったことは。
「あれ?ことはさんは?」と悟天は首を傾げ、大木に近づこうと足を一歩踏み出そうとしたとき。
「うしろだよ」
背後から聞こえたのは間違いなくことはの声。悟天がくるりと振り返ってみるとつい先ほど反対側に吹っ飛んでいったはずのことはが立っているではないか。
ことはの右頬を思い切り殴った手ごたえが悟天にはあった。
そしてこの目で背中から大木にぶつかった姿も確認したはずなのに何故自分の背後にいるのだろう?
「ことはさん、今どうやってボクのうしろに来たの?」
「あはは、ごめんね。悟天君、私が想像してたよりずっと強いから忍術使わせてもらっちゃった」
「どうしてボクの背後に?」と素直に疑問を浮かべている悟天に「忍術使っちゃった」と苦笑いをしながら印を結ぶポーズをしてみせたことは。
もちろんそう言ったところで悟天が「そうだったんだ!」と理解できるわけはなく、すかさず「にんじゅつ?」と首を傾げる。
まだまだ幼い子供相手……、と侮っていたことはは素早く一撃一撃が重い攻撃から逃れるべく「反則かな……」と思いつつも影分身の術を使い悟天の背後にまわったというわけである。
「悟天君が攻撃してるあいだに、分身とすり替わってたの」
印を結び「影分身の術!」と口にすると先のようなボンッ――という音とともに現れることはの分身。
悟天は初めて見る忍術に興奮し「すごーい!」と大いに驚いていて「他にも何かできる!?」と続けるその姿が、ことはは見覚えがある気がした。
―――す、すごい!本当に忍術使えちゃった!
―――他は!?他にも何かできるの!?
さすが兄弟と言うべきだろうか、驚く表情や催促の仕方が悟飯と出会ったばかりの頃の姿と重なりことはは自然と笑みが零れるのがわかった。
「他は他は!?」と早く次の術が見てみたい悟天の期待に応えるため、ことはは「それじゃ、」と再び印を結び始め、思い切り肺に酸素を送り込む――。
「火遁・豪火球(ごうかきゅう)の術――――!」
ことはと分身の口から大量の炎が球体状になって噴出されていく。
それを見て悟天はさらに興奮し「すごいすごい!」と嬉しそうに手を叩いた。
見世物レベルの術であればこんなものだろうと「簡単にできるならこんなところかなあ」と言いながら影分身の術を解除することは。
「満足した?」
「うん!あ、ボクも忍術みたいなのできるよ!」
「え、うそ」
「みたいなの」ということは忍術ではないのだろうが、この世界では空を飛べたり国々でさえも移動できる技があるのだ、忍術に似た類のものがあってもおかしくないのかもしれない。
しかしいくら七歳にして体術のレベルが遥かに高い悟天でもさすがに出来ることに限りがあるだろうと、半信半疑でことはは「見せてもらいたいなあ」と言ってみる。
すると二つ返事で「いいよ」と言い、悟天はスッと右手を大きな岩に向けた。そして、
ドオ――――ンッ
「……………………。」
一瞬にして目の前にあった大きな岩が消えてなくなった……、というより悟天が消してしまった。
ことはの見間違いでなければ悟天の右手から閃光のようなものが飛び出し、それが岩にぶつかった瞬間に爆発し岩が粉砕した。
悟天の右手から放たれた閃光の破壊力など豪火球の術の比などではない、忍術で言えば特別上忍クラスにならなければ会得できないレベルだ。
「(この世界の七歳児怖いな…………、)」
そんなものがわずか七歳の少年から繰り出されたと思うと自分が上忍になるために努力してきたことがほんの少しだけバカらしく思えたことはだった。
PREV|TOP|NEXT
INDEX