あぁなんてついていない――――――。
中忍選抜試験の本戦日――。
惜しいことに予選落ちしてしまったことはと幼馴染二人は本戦会場に来ていたのだが、試合の最中突如現れた砂隠れの忍軍団のせいで木ノ葉の里は大混乱に陥っていた。
いつの間にかかけられていた幻術を解き「とにかく安全なところへ!」という幼馴染の一言で会場から離れることに。
しかし、砂隠れの忍びに襲われ悲鳴をあげている木ノ葉の住人に気づき能力の差を理解しながらも戦闘の体制をとった。
里の住人が避難を始めたときのことだった。砂の忍が巻物を手に印を結び出したのだ。
「何か大きな術がくる!気をつけろ!」と幼馴染の片方が言った瞬間、視界がぐにゃりと歪む。
「幻術……!」と気づいたときにはすでに遅く、肩から腹部にかけて焼けるような痛みが走る。
息を飲む暇もなく、刀で切り付けられたことはたちに次々に襲い掛かる容赦のない攻撃。
「(あ、ちょっとまずい)」
なす術なくボロボロになった体が地面に倒れていく。幼馴染の悲鳴にも近い声が聞こえる。
―――人は死ぬ直前に、生きていた頃の記憶が走馬灯のように駆けると聞いたことがある。どうやら本当のようだ。
祖母に一撃も食らわせられなかった悔しさ。先日幼馴染のどちらかが冷蔵庫のプリンを勝手に食べていた気がする……、いや祖母だったか?
何故記憶が走馬灯のように駆けるのか。それは今現在迎えているピンチから抜け出す策を探しているのだとどこかで聞いたことがある。
「プリン食べたかった……、」
思わず口から零れた言葉。いや、プリンなんかよりも、もっと大切な記憶が蘇りそうだった。
砂の忍がごちゃごちゃと何かを言っている気がしたが、血を流しすぎたのだろう。ことはの聴覚は正常に機能していないのかだんだん聞こえづらくなってきた。
だが「死ね」とは言われてると思う。
「子供相手によくもまぁここまでムキになれるものだ」死ぬ寸前だと言うのにことはの思考は見当違いな方へと向き始めていた。
それでも、意識は薄れてどんどん薄れていく――――。
「悟飯。こいつは一体何者なんだ」
神の神殿の一室。
「あとできっちり説明しろ」そう言ったのはいいものの、傷が癒えたにも関わらず中々目を覚まさない少女に痺れを切らし、不安そうな表情で少女を見つめている弟子にピッコロは問いかけた。
言うか言うまいか――。悟飯はそんな表情をしていたが、「悟飯、」というピッコロからの催促をされているような呼びかけにゆっくり口を開く。
「………――ことはさんが何者なのかは、ボクもわからないです」
「なに……?」
「わからない」と口から零れた瞬間、空気がピリッとした。「……どういうことなんだ」と低い声で言うピッコロは怪訝そうな表情をしているだろう。
それでも悟飯は気にすることなく「もう何年も前なんです、最後に会えたの」と続けた。
「荒野に置き去りにされて不安で堪らなかったボクに、毎晩ことはさんは元気をくれた」
「………………――、」
荒野に置き去り。それは悟飯が四つの頃に自分が修行の一環としてやったことの話だとピッコロは察したが、一つ疑問が浮かぶ。
あの荒野には悟飯と、度々様子を窺っていたピッコロ以外に人はいなかったはず。
気づかないところで逢瀬を――、というのなら話は別だが、まだ幼かった悟飯にできるわけがない。
そんな考えを汲み取るかのように零した悟飯の言葉でピッコロは話のすべてを理解し、かつ幼かった悟飯が嬉しそうに話していたことを思い出した。
「きっと今日も夢にお友達が会いにきてくれるから、ボクまだまだ修行頑張れます!」
「夢でしか会えなかったけど、あのときのボクにとってことはさんは心の支えになってくれてたんです」
「……なるほど、こいつが」という言葉は口から零れることはなくピッコロの心のうちで呟かれるだけとなった。
いまだ意識の覚めない少女――ことはが悟飯の夢の中の友達だということは置いておくとして。肝心の彼女が何者なのかがわかっていない。
おまけに何もない空間からいきなり現れたことも。そんなことをできる人物をピッコロは地球上で一人しか知らない。
もしこの少女にも瞬時に別空間に移動する芸当ができるなら、そう思いピッコロは口を開いた。
「こいつも悟空のように瞬間移動ができるようなことは言っていなかったか?」
「瞬間移動ですか……?」
「うーん……、どうだったかなあ」そう言いながら首を傾げ悟飯は昔夢の中でことはと交えた会話を思い出す。
真っ暗な世界での会話はどれも他愛のないものだったがすべて特別なもの。その中で一際覚えているのがことはが見せてくれた”術”だった。
「そう言えば、」と悟飯が口を開こうとした瞬間、変化のなかった少女の気がかすかに変わり即座に反応する。「っ、」
「ことはさんッ――――――!!?」
「………――――――っう、」
思わず出てしまった大きな声に自分でも驚きながらも悟飯は「ことはさん大丈夫ですか!?」ともう一度ことはに呼びかけた。
すると、固く閉じられていたことはの瞼が薄っすらと開き「っ……、」と小さく呻き声が零れた。悟飯の表情がパァと綻ぶ。
静かに様子を窺っていたデンデも口には出さなかったものの「良かったあ」と言うように笑みを浮かべ、ピッコロは「やれやれ」というように腕を組み直し口を開いた。
「ようやく目を覚ましたな」
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